海外情報紹介 地域的な二酸化炭素規制制度の実施をICAOが制限し、欧州エアラインはEU ETSの次の手に異議を唱える。

現在運用されているMBM(市場に基づく対策)を国際航空に適用する場合は「他国の合意が得られるよう二国間及び/または多国間の前向きな協議及び折衝に携わらねばならない。」という文章をICAOが第38回ICAO総会の気候変動決議に差し挟んだため、欧州域内排出物取引制度(EU ETS)の実施は制限されることになるのですが、それに係わる動きについてGreenaironline.comの関連記事の要約をご参考までに掲載します。

原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=1764
 2013年10月10日木曜日 − 欧州議員が先週のICAO総会における気候変動関連合意について討議したが、欧州エアラインは、航空に関する欧州域内排出物取引制度(EU ETS)をEUがいかに継続するかについて意見が異なるようだ。欧州の大規模エアラインである2社すなわちRyanairとeasyJetが会員になっている、欧州低運賃エアライン協会(ELFAA)は、欧州委員会或いは欧州議会が設定した「最後の一線」の条件をICAO決議は何も満たしていないと主張する。それでELFAAは、今こそEUはEU ETSを元来の条件で施行するという誓約を守るべきであるとの意見である。それに反して、欧州域内の地域航空を代表する欧州地域航空協会(ERA)は、少なくとも市場に基づく国際的な対策(MBM)のICAOによる正式な採用が可能になる2016年までEUが制度全体の施行を保留すべきであると信じている。一方、航空のEU ETSに関する欧州議会の報告者であるPeter Liese博士は、欧州域内の飛行のみ対象とするような制限付きの、対象範囲を狭めた制度を彼の同僚である欧州議会議員らが支持することはありそうもないと述べた。

 先週金曜日に合意された総会決議に言及して(記事を参照のこと)、ELFAAの事務局長であるJohn Hanlon氏は言った。:「同業者で総会の結果を画期的な決議と称賛するものもあるが、ICAO加盟国は航空排出物に対処するための、市場に基づく国際的制度に関する提案を引き続き調査することに合意し、実際には実体の無い誓約があるだけで、さらに3年検討期間が続くだけである。ICAOはEUが公言した2つの目標を断固として拒否した。2つの目標とはすなわち−第1は、国際的MBM開発のための現実的な道筋で合意に到達すること、第2は、国家的及び地域的MBMを国際航空に包括的に適用するための暫定的枠組みの合意を得ることである。」

 「ICAOの会議をEUは、国家の、地域のそして世界のCO2排出量の低減に大いに貢献する機会として捉えていた。その機会は失われた。」

 EU ETSをEUの空域内のみの国際便による排出物に適用するという、総会前のEUの妥協案を欧州議会は支持していたのだがICAOに拒絶されたと彼は言及した。EUの気候担当委員であるConnie Hedegaard氏が「EU ETSの適用を保留する」という特例扱いを去年11月に公表した時に引いた「最後の一線」も守られなかったと彼は付け加えた。

 EU域内のみの便にEU ETS制度の適用を限定すればEU内の航空によるCO2排出量のほんの一部を捕らえるだけの、全体として環境改善効果のないものになるだろうとHanlon氏は主張し、EU ETSが米国のエアラインを対象とすることに抗議して米国エアラインが起こした訴訟で欧州裁判所が下した判定を考えれば、差別的であるが故に非合法なものになるだろうと彼は信じている(記事を参照のこと)。加盟エアラインが欧州域内定期交通の43%を超える割合を占めるELFAAは、EUの次の手が保留されたままであるこのEU ETSの問題について、すでに法的手続きを開始した。

 「EUは今こそ、法的に『全便を対象とした』施行に立ち戻ることで、EUの信頼性とEU ETSの環境的有効性を復活させるべきである。」とHanlon氏は述べた。

 50社を超すEU域内地域航空を会員とするERAは、異なる立場をとる。

 「我々の見解は、2020年から国際的な対策を実施するための工程表でICAOは合意に達し、これは欧州委員会や他の多数から画期的であると称賛され、従って今や地域的制度に出る幕はない。」ERAの事務局長であるSimon McNamara氏はGreenAir紙に語った。

 「EUはEU ETSをすべての運航について保留にし、2020年実施を目指し2016年に国際MBM制度で合意しようという取り組みを支持すべきである。すべての便について特例措置を2016年まで延長し、いかに進展させるかを決めるべきであると我々は信じている。」

 彼は付け加えた。:「欧州域内の便にのみ適用する制度を運用することには意味がないし、CO2排出物のほんのわずかな部分しか捕らえないだろう。− 国際的な制度を必要とする、航空は国際産業である。EU ETSはすでに我々の会員が管理するには複雑過ぎて費用がかかりすぎるので、欧州のエアラインが不景気からの回復を試みるている時には有益でない。」

 ERAはこれまでのところ法的な異議申し立て手段はとっていないが、欧州委員会が「施行を保留する」範囲を拡張するという決定をした場合、「差別的で非合法なものになる可能性があるので、とても慎重に我々の立場を再検討し、どのような手段をとるか決定するだろう。しかし、公平な結果を確保するために、我々はこれから3ヶ月の間欧州委員会と前向きに作業を行うつもりである。」とMcNamara 氏は述べている。

 国際的MBMの開発のための時間をICAOに与えるため、EU ETS全体の施行を保留して欲しいというERAの望みは欧州議会において多くの支持を得られることはなさそうである。

 航空をEU ETSの対象とすることに関してと、「施行を保留する」特例に関しての欧州議会の報告者であるPeter Liese博士は、ICAO決議の最終的な文面は、総会に先立ってICAO理事会が合意した妥協案より内容が弱くなってしまったと述べた。2020年までに国際的なMBMが施行されるかどうかは「遙か先のこと」だと、彼は付け加えた。しかし、総会で到達した合意はEUが強いプレッシャーを与えた結果達成された第一歩であり、維持されることが必要だと彼は述べた。

 EU ETS法をどう扱うかについての法的選択肢と政治的選択肢は分析が必要であるとLiese 氏は述べた。「我々の現在の法律では、2020年まで国際航空について排出物取引を保留することは不可能である。」と彼は説明した。「私の見込みでは、欧州議会は2020年まで欧州域内の便のみを対象とすることに合意しないだろう。」欧州内で離発着する全便から生じる欧州空域内の排出物を対象とすることは「絶対に必要である。」と彼は付け加えた。

 欧州議会がEU加盟国を代表する欧州理事会と共同で、来年4月までに法的文面を決定するに至らなかったら、欧州空港を使用する大陸間国際便全便を対象にする元来のEU ETS法が再び効力を発することになるだろうと彼は警告した。

 主要な航空ネットワークを運航する会社を代表する欧州エアライン協会(AEA)は、今のところEU ETS自体には意見を表明していない。ICAO総会後の声明では、AEAはICAO合意を称賛し、そのことはAEAの言及によると欧州連合にも歓迎されたそうである。

 「これは現実世界の政策にとっての勝利である。」とAEAの事務局長代理であるAthar Husain-Khan氏は語った。「まったく進展が無いよりは少しずつでも進展があった方がいいし、意見の分裂や対立よりはずっといい。」

 ICAOが国際的MBMのための仕組み作成に打ち込んだ3年間の、「今回は意見のまとめ役として」EUは自らの統率力を再確認すべきだと彼は述べ、以下を付け加えた。「ICAO内の多様性を共通の目的へと導くことは骨の折れる作業になるだろうが、最終的に得られる恩恵は莫大なものだろう。第一歩が踏み出されたが、これは重要な一歩である。」

 欧州委員会は近々、EU ETSをこれからどうするかに関する提案を公表する予定である。