海外情報紹介 EU ETSを修正して第三国を規制対象にしようとするEUの計画に対し、米国の国会議員が中国と共に反対し、英国が動揺

原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=1794

 2013年12月2日月曜日−欧州議会議員が欧州域内排出量取引制度(EU ETS)の規制範囲を修正しようとする提案について作業をする一方で、米国の下院議員は米国の運輸長官であるAnthony Foxx氏に対し、EU ETSへの米国の民間航空機の参加を禁じる権限を行使するよう要求している。運輸委員会の超党派の代表らは、EU制度の適用は最近のICAO合意に違反すると主張し、米国の運航者が「EUの制度の一方的な適用によって損害を与えられないよう」保証するようにEUと交渉するようFoxx氏に要請している。中国も欧州委員会の提案に不快を表しており、気候変動に取り組むに当たっての国際的結束に害を及ぼし、UNFCCCの共通だが異なる責任の原則が、市場に基づく国際的対策の設計と実施を裏付けなければならないと主張した。その一方で、第三国を離発着するフライトを規制対象とするという欧州委員会の提案に反対の立場であることを示唆したのは英国もであった。  米国下院の運輸・インフラ委員会と航空分科委員会の主要メンバーからの書簡には、提案されたETSへのEUの修正は「EUを離発着する米国便の欧州空域にかかる部分に一方的な適用がされることから、ICAO合意の精神と字義を冒涜している。」と書かれている。

 議員に言わせると、修正はICAOが開発し合意の得られた枠組みを『侮辱』しているそうだ。「ICAOでの国際的合意を通して航空排出物に取り組みたいと主張するにもかかわらず、見たところではEUは単にICAO合意の望ましい部分にのみ従いたいようだ。」

 そのために、彼等は、2012年遅くに立法化されたETS禁止法に規定されるように、Foxx氏に速やかに交渉を行うよう要請し、もしEUの修正がそれでも通過するようなら、公衆の利益に適うと判定されれば、ETSに米国航空機の運航者が参加するのを禁じるよう要請している。

 「この判定を行うにあたっては、運輸長官は米国の消費者、航空会社や運航者への影響;米国の経済、エネルギー、及び環境安全保障への影響;そして現在の国際公約を含めた米国の外交関係への影響を考慮することになっている。」と書簡には書かれている。

 彼等によれば、「国の法律なのだから、それゆえ、運輸長官が公共の利益のために行動し、法の下で運輸長官に許される権限を最大限行使するよう、我々は要請する。航空排出物を取り扱う世界的取り組みの開発について、ICAOは合意の得られた工程を表明し、ICAOがこの目標を達成するにふさわしい場であることは変わらない。」

 米国運輸省の上級職員は、先週のロンドンでの「航空輸送の将来会議」で、欧州委員会の提案は「必要のない混乱」であると話した。

 ワルシャワでの最近のUNFCCC COP19へ割り込んで、中国が表明したのは、国際レベルでは二国間或いは多国間協議によって合意がなされなければならないと決定されたにもかかわらず、「ある地域と国家群がいまだ国際航空と海運輸送に一方的な対策を適用しようと決定、或いは企てている。」というものだった。EUの空域提案を特に名指しすることなく、中国の声明は以下のように続く。:「これらの行動は必然的に気候変動に取り組むための国際的活動の結束と連帯に悪影響を及ぼすことになり、UNFCCCと京都議定書にとって悪い先例となり、(航空と海運という、)これら2つの領域の地球に優しい発展の妨げとなるだろう。」

 ICAOとIMOによる、UNFCCCの科学技術助言機関(SBSTA)への年間報告の発表に続いて中国の割り込み声明が行われた。ICAO報告の焦点は最近の総会における気候変動決議の成果だった(A38-18)。

 「ICAO第38回総会において、CBDRと双方の合意の原則が、国際民間航空による排出物に関して市場に基づく対策を設計及び実施する場合の土台となるという、ICAOが採用した決議を中国は歓迎する。」と中国代表が述べた。「我々はまた、第65回MEPC総会で採択されたIMO決議を歓迎する。この決議は『UNFCCCとその京都議定書に奉られた、CBDRの原則を含めた諸原則』を認めている。2つの国際機関の加盟国による、協定の原則を再確認するための努力と建設的な態度を反映する、これらは主要な道標である。UNFCCC内部の活動であれ外部の活動であれ、世界規模の気候変動に取り組む活動が統合されて一貫性のあるものへと移行してきたと言及できるのは喜ばしい。」

 「そこで、温室効果ガス低減制度の構築にあたっては各国がこれらの諸原則を一層実地に移すこと、そして先進国と発展途上国との違いを認識することを、中国はICAOとIMOの加盟国に強く勧奨する。我々はまた、前述の地域及び国家群が多国間の交渉及び協議の場に戻って、気候変動に取り組むための主要な枠組みであるUNFCCCの優位性に十分な敬意を払い、国際航空輸送と国際海上輸送の持続可能な発展を損なうような行いは慎むよう要求する。」

 ICAO総会決議にCBDR原則が含まれることは特筆すべきだが、その後、欧州の諸国家や米国を含めた先進国から提出された留保によって拒否された(記事を参照のこと。)。

 David Cameron首相が率いる、かつてない規模の英国貿易使節団が中国へ出発するため、英国もまた欧州委員会の空域提案に反対の立場であることを示唆し、少なくとも2016年までは2013年に採用した『時計を止める』扱いを延長することを望んでいる。というのも、国際的な反対や起こりうる報復に直面することを英国は望まないからだ。

 「航空に関するEU ETSの現在の交渉に関して英国の目標は、航空排出物に関する市場に基づく国際対策について2016年での合意を促すことを期待して、高水準で順守を達成し、国際的な報復の危険性を避けるような範囲で、加盟国が次の4月までに欧州議会との合意を達成することである。」と英国のエネルギー・気候変動省(DECC)の広報担当者がGreenAir誌に語った。

 「欧州経済地域内のフライトをEU ETSの規制対象にする(すなわち、2013年の欧州委員会提案の延長)という範囲が、この目的達成のためには最良の策かと我々は現在考えている。」

 「明確な時間的制約にもかかわらず、交渉はいまだ比較的初期の段階にあり、我々はこの件について他の加盟国及び欧州議会議員らと、これから何日、何週もの間、許容可能な妥協点を探すという目的で話し合うことになるだろう。」

 これまでのところ公式なコメントは無いが、フランスとドイツは英国の立場を支持すると見られている。3カ国はエアバス社の主要な出資国であり、エアバス社の航空機購入を保留するという中国の脅しに遭い、欧州委員会に圧力をかけて2012年にEU ETSの完全施行を止めさせたと言われており、その結果、2013年のICAO総会の結果が出るまで1年間の『時計を止める(STC)』適用制限を行うこととなった。

 STCの下では、EEA内のフライトからの排出物のみがEU ETSの規制対象となる。中国とインドのエアラインがEEA内で飛行を行うと見られるが、2カ国はEU ETS指令を順守しようとする態度をこれまでのところ見せていない。先週、航空関連のEU ETSに関する欧州議会の報告責任者のPeter Liese氏は、中国やインドのような第三国が欧州連合内で運航する場合にSTC規制に従うことさえ拒否することは、彼と欧州議会にとって許し難いことだと述べた。

 欧州連合理事会と欧州議会が代表する、EU加盟国内の対立は現在まだその全容を表していない。立法化のための時間はすでにかなり限られており、航空輸送産業や他の利害関係者と新たな協議を行い、欧州委員会の新しい提案は正式なものにしなければならない。欧州のエアラインとNGOsは、たとえ2016年までの延長としてもSTCの継続には満足しそうもない。何千何万というビジネスジェットの運航者は、いわゆる「小規模排出者」として現在はSTCの下で規制対象になっているが、今度の欧州委員会提案の下ではEU ETSの規制対象外となる予定であり、これについても決定がされねばならないだろう。新しい法律が4月までに施行されない場合には、EEA空港を離発着する全フライトを規制対象とするEU ETS指令の完全施行に自動的に戻ることになる。

 幾らかの修正がなされるなら、第三国を離発着するフライトの排出物も含めた、EEA空域内の排出物に、EU ETSの規制対象を制限するという欧州委員会の提案をLiese氏は概して支持している(記事を参照のこと)。

 彼曰く、STCが欧州のエアラインと空港の競合状態に悪影響を及ぼしているとうことであり、以下を付け加えた。:「単純に『時計を止める』のを延長したのでは、欧州連合の無条件降伏ととられかねない。国際レベルでの進展があるなら、主に欧州連合による圧力を通じてであり、我々は自らの誓約にこだわる必要がある。」

リンク:

米国運輸長官宛ての米国下院運輸委員会の書簡

SBSTA39へのICAOとIMOの報告

SBSTA39での中国によるICAOとIMOへの割り込み発言