海外情報紹介 国際便をEU ETSで一方的に規制するというEUの提案は国際的な制度を危険にさらすと「衝撃を受けた」IATAが言明

原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=1803

 2013年12月20日金曜日−国際社会に諮ることなく国際航空をEU ETSの規制対象として取り扱うという欧州委員会による提案は、貿易戦争の脅威を再燃させることになりかねず、市場に基づく国際的気候対策制度開発のための共同作業に集中しようとする加盟国を戸惑わせることになりかねない、とIATAはコメントしている。「ICAO加盟国が市場に基づく対策(MBM)開発のための歴史的合意を10月に行い、一方的に国家的或いは地域的制度の対象にすることを否定した後に、欧州が間違った方向へ舞い戻りつつあるというニュースが聞こえてきたので不信と衝撃が呼び起こされた。」と事務局長のTony Tyler氏がIATA国際メディアデイに報道記者に語った。
 「私にとって、気候変動に関するICAO総会の結果は航空と地球のための大きな前進だった。」とTyler氏は語った。

 EU/EEA空域内の全便の排出物をEU ETSの規制対象にするという欧州委員会の提案は、すでに政治的緊張をもたらしていると彼は語った。「この提案のせいで、航空のための市場に基づく対策について、国際的な合意を見つけるという大きな目標達成のための重要な作業から政府が気をそらすことがないようにと我々は願っている。」

 IATAの会員と対外関係担当の上級副総裁であるPaul Steele氏は、国家或いは国家の集団は、その独自の空域内における第三国からのエアラインの飛行を、その第三国の合意無しで規制可能であるという、EUの推進した提案は37対97の票決で明確にICAO総会で否決されたのだ、と述べた。

 彼はまた、欧州委員会の提案が、EU空域に入っている飛行部分をいかに正確に計算するのかなどという、多くの法的問題や運航上の問題もまた提起したと述べた。「しかし、我々の心配するのはそのレベルをはるかに超えて政治的レベルにまで及ぶ。」と彼は付け加えた。「業界としては確実に避けたいと思うような状況である、貿易戦争の瀬戸際まで我々を引き戻すことになる。」

 EU ETSを欧州域内の便のみに適用するという「時計を止める(STC)」やり方の方がむしろ好ましいとして、EU加盟国が欧州委員会のやり方に疑問を呈するような兆しもみえていると、Steel氏は言及した。これは、彼に言わせると、ICAOに国際的MBMのための作業推進のための作業の余地を与えるだろうとのことだ。

 今週の欧州議会の環境委員会(ENVI)会議の席上で、航空に関するEU ETS指令の報告者である Peter Liese博士は、欧州域内を規制するやり方では競争上の不利が生じ、競争の歪みをもたらすとして、この問題では欧州のエアライン産業ではしかし、意見が分かれていると主張した。

 欧州議会でもまた意見が分かれていると彼は述べ、欧州委員会の提案は野心的に過ぎるとして、時計を止める状態(STC)を継続するのを好む者と、提案は十分には意欲的でなく、欧州指令の本来の規制範囲に戻すのを好む者がいるとのことだった。空域方式は2つの立場のうまい妥協案であると彼は主張した。彼が望む提案の修正は、2016年のICAO総会後に法律を見直し、排出枠取り引きの収入は技術開発と気候に関する国際的な財源へ割り当てるというものだった。

 Liese氏は、とりあえず米国は空域方式には文句がないだろうと主張した。なぜなら一国の空域の主権問題は米国にとって「神聖」なものだからだ。

 「EU法は適用されねばならず、我々は脅しに屈することはできない。我々は降伏すべきではないし、第三国の主張に屈するべきではない。」と彼は述べ、EU加盟国はEU法を実施する義務があると付け加えた。

 Liese氏による欧州委員会提案の支持と彼の修正案は、航空に関わるEU ETS指令に関して彼の影の報告者でありENVI委員会の議長であるMatthias Groote氏が支持した。

 ENVIの欧州議会議員である Martin Callanan氏は意見が異なり、ICAOでの国際的取り決めは優先されねばならず、EU加盟国が扱いに苦慮してきた第三国数カ国がEU法を順守しないという深刻な懸念があり、第三国をEU ETSの規制対象にすると最終的にEUの再度の退却につながり、恥をかくことになりかねないと発言した。EU加盟国は決して排出枠取り引きの収入の使途をあらかじめ定めることには同意しないだろうと彼は述べた。ENVIのメンバーであるChris Davies 氏もまた、空域方式の提案には不安があり、EUには外部からの圧力で再び砕け散っているひまはないと述べた。

 「我々は法的には正しいかもしれない。」と欧州議会議員でありSTCの継続を好ましく思うHolger Krahmer氏は言った。「しかし、実施不可能な法律にたどり着く可能性がある。ICAOでは国際的な取り決めで合意することを望まない加盟国があることは隠すまでもないが、EUの頑迷さがこれら敵対者につけこまれることになる。」

 欧州議会の産業委員会(ITRE)における航空関連EU ETSの報告者であるEija-Riitta Korhola女史は、欧州委員会の提案には反対で、2016年までSTCを継続することを支持すると述べた。

 Elina Bardram女史は、2012年においては対象となる全排出物の98%が航空関連EU ETSを健全に順守していると欧州委員会のために報告した。彼女は空域方式は推進するにはよいやり方で、法的にも技術的にも堅実であると述べた。

 ENVI委員会での提案と修正の票決は1月23日に行われる予定で、欧州議会全体での投票は4月に行われる予定である。それまでは、欧州委員会と加盟国を代表する欧州連合理事会の共同決定プロセスが継続する。

 欧州の環境NGOの一団が昨日、英国、フランス及びドイツ政府の指導者達に書状を送り、 Liese氏への支持と、STC継続を良しとして空域方式を拒否しようとする3カ国の提案の取り下げを訴えた。

 「そうすることにより、シカゴ条約によってもたらされた国権や義務を保持しつつETSを修正して欧州はICAOを尊重していることを裏付けることになるだろう。」とブリュッセルを本拠地とするTransport & Environmentの広報担当者が言った。「さらに重要なことに、欧州域内の空域で排出物を規制することをEUに要求することで、速やかで効果的な行動が火急に必要であると公式に表明することになり、欧州が規制を行う権利を追認し、航空会社を公平に扱うというICAOの原則を強固にすることになるだろう。」

 「我々はまた、2012年の法律を順守しそこなったエアラインに対して適切な執行手順がとられるよう彼等の政府が保証することと、この対応がなされることを彼等の政府が我々に追認することを要求する。2012年の法定義務の効果的な執行がなされなければ、欧州内及び欧州外の航空会社が将来の法律を順守することは見込めない。」

リンク:

IATA−国際メディアデイにおけるTony Tyler氏の発言

IATA−Paul Steele氏による発表:「ICAOの成果を足場とする

欧州議会のENVI会議(航空関連EU ETSの討論は10:25:40に開始)

NGOsから英国、フランスそしてドイツ政府の指導者らへの書簡