海外情報紹介 欧州裁判所がスイス航空について審議を行うことになった折に、中国とインドのエアラインはEU ETSを順守することになる。

原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=2084

2015年5月19日火曜日−強制的に欧州連合域内排出量取引制度(EU ETS)の対象にされたことで長い間EUと争っていた中国とインドのエアラインは、欧州経済地域(EEA)内で運航したフライトの2012年に加えて2013年と2014年の排出量についてもついに法律要件で完結した。この欧州の制度が本来の対象範囲から大陸間便を除外するという変更を行った後も、これらのエアラインは自国政府からこの欧州制度には対応しないようにという命令を受けていた。中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空とインドのジェット・エアウェイズは運航者所有のアカウント(排出量数値簿)を開設し、現在EUの登録簿には報告された排出量と放棄された排出枠の3年分が示されている。しかし、エア・インディアはいまだに順守の方向に向かっておらず、自国の所轄官庁から指示されているアエロフロート(ロシア)とサウジアラビア航空も同様に順守していない。その一方で、スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)は、2012年にスイスとEEA国家間で運航した自社便をEU ETSの対象に含めることについて、除外扱いと補償をEUの最高裁判所(欧州裁判所European Court of Justice)にて要求することが認められた。
航空関連EU ETSの国際的対立では、EU内空港で離着陸する全航空機をEU ETSの対象にするというEUの計画に反対して多くの主要国家(中国、インド、ロシア、USA他)が2011年と2012年に「不本意同盟」として団結することとなった(記事を参照のこと)。そのような反対に直面したことと、市場に基づく国際的対策に関するICAOでの調整を進展させるための支援として、EUが譲歩して「時計を止める」ために法律の修正を行い、航空がEU ETSの対象となった最初の年である2012年は対象範囲を狭めてEEA内のフライトのみを対象とすることになった。2014年の早い時期に成立した新しい法律ではさらにこの対象範囲を狭め、適用期間も2013年から2016年までと延長した。

対象範囲がEEA内のフライトに狭められてから、米国はEU ETSへの反対を取り下げて、ほとんどの米国のエアラインと貨物航空、ビジネスジェット機運航業者はこれまでにEU ETSを順守してきた。しかし、インド、中国、ロシアのエアラインはEU法の下で2013年4月30日を実行期限として義務づけられていたにもかかわらず、2012年に運航した欧州空港間路線のフライトによる排出量を現在まで報告しておらず、必要な量の排出枠の放棄も行っていない。これらのエアラインを管理する義務を負うEU加盟国の担当機関によって、順守するよう説得する努力が水面下で行われたが、現在までのところ進展は無い。加盟国はEU ETSを順守しない運航業者のリストを公表する必要があるが、政治的対立を避けるため、これら非順守国家のエアラインの名称はこれまでのところ公式に公表していない。

改正されたEU法の下で、2013年と2014年は特別なケースとみなされ、年1回報告する代わりに、運航業者には今年3月終わりまでにこの2年分の排出量を報告し、必要な量の排出枠を先月終わりまでに放棄するように要求された。

個々の運航業者アカウントの検証済みの全排出量と放棄された排出枠を記録し、その正当性を裏付ける欧州連合の取引記録(EUTL)によれば、中国国際航空の子会社を含めた中国のエアライン3社とジェット・エアウェイズは合計で63,000を超える排出枠(CO2で63,000トンに相当する)を3社の中で3年間についてこれまでに放棄した。この期間中に中国国際航空はアテネとミュンヘン間の定期旅客便を運航し、中国南方航空はアムステルダム〜ウィーン間、中国東方航空はフランクフルト〜ハンブルグ間で旅客定期便を運航した。EUTLはこれらエアライン4社の排出量がそれぞれの担当のEU管理局によって個別に検証され承認されたかどうかについては明確にしていない。

最近ジェット・エアウェイズは、一方的にEU ETSの対象にするのはICAO総会決議で得られた世界的な合意と主旨が一致しないことから、インド政府はEU ETS順守を禁じていたと主張する内容で英国に対する法的申し立てをしたが、敗訴した(記事を参照のこと)。このエアラインはGreenAir誌に対し、この裁判についてはコメントしたくないと語り、裁定に従ってEU ETSを順守する許可をインド政府から得たのかどうかも今のところ不明である。

これまでのところ、政府所有のフラッグキャリアーであるエア・インディアやアエロフロートによる業者所有のアカウントは開設されていないが、他の小規模なロシアとインドの航空機運航業者はEU ETSの規定に従っている。自国の政府が国際的EU ETS反対同盟の主要メンバーであるフラッグキャリアーとしてのサウジアラビア航空に対しては、140万ユーロ(160万ドル)の罰金がフランドル地方の担当機関によって科されたと考えられており、単一に科せられた罰金の中で最大のものの1つであるとフランドル地方の担当機関は報告している。

翌年4月末日の期限までに制度を順守しない場合には、排出したCO2の1トンあたり100ユーロの罰金の義務づけをEU ETS法は強く要求しており、ドイツ(記事を参照のこと)やイタリアなどのEU加盟国数カ国は、2012年の排出量についてEU ETSを順守しなかった航空機運航業者のリストを最近公表した。ドイツ環境庁(DEHSt)に報告する中国国際航空とアエロフロートはまだ最終的な排出量とはみなされなかったのでリストされていない。

Carbon Pulse誌の報告には、2012年の排出量についてエア・インディアを含めた海外の航空機運航業者6社に対して、EU ETSを順守しなかったため、英国当局は総額113,000ユーロ(128,000ドル)の罰金を科し、さらに罰金が科される可能性があると述べられている。英国法は、毎年6月末日までに非順守の運航業者の各年毎の完全なリストを公表するように求めている。

これまでにEU ETSを順守していなかった欧州以外の他のエアラインとして、エチオピア航空が2012年のEEA内の運航によりCO2排出量がほぼ20,000トンにまでなり、イタリア当局から罰金を科されたと考えられている(記事を参照のこと)。しかし、現在EUTLには2012-2014年の分としてアフリカの航空会社が62,655の排出枠を放棄したことが示されており、これは中国の航空会社4社とインドの航空会社であるジェット・エアウェイズを合わせたものとほぼ等しいほど多量である。

航空危機管理会社のAvocetは、EU ETS順守の経緯を追跡しているが、そのCEOであるバリー・モス氏は語った。「以前はEU ETSに違反していた多くの航空会社が現在はEU ETSを順守しているのを知って嬉しい。まだ明らかになっていないのは交渉の余地がない罰金が規制当局によって強制執行され、これらのエアラインが順守すべき2012年の排出分について罰金を払うかどうかである。もしEUがEU ETSを適用する運航業者に対して差別無く適用されることを望むなら、各加盟国は各国の法律に書き入れ、EU指令として行動しなければならない。」

その間に、ロンドンの最高裁判所で述べられたSWISSの訴えでは、EU加盟国でもなくEEA国家でもないスイスに離着陸するEU/EEA便に対し、2012年については「時計を止める」としたEU ETS順守免除の特例扱いがなされず、不当な差別があるとする欧州裁判所(ECJ)への付託要請が認められた。EU ETS制度の下で、SWISSは英国が担当する。

欧州委員会が一時的な執行停止を考えた時には、欧州委員会はEU ETSをスイス国内航空と同等に関連づけようとスイス政府と交渉中であり、改正したEU/EEA内のみを対象とする規制範囲にSWISS便を含めることに従う義務があるとスイス当局が考える理由が欧州委員会にはあった。Carbon Pulse誌によると、2010年に開始されたこの交渉の速度が遅かったが、航空が規制対象に含まれることが見込まれる今年には合意が得られると予想している。

「時計を止める」規制対象範囲が2013-2016年の期間についてもさらに見直しが行われた時に、スイスを発着する便は一時的に規制対象から外されたが、SWISSはこれらのフライトがEUの炭素制度の2012年の取引分からも除外されていないのは不公平だと主張している。このエアラインのEUTL登録内容からみると、2012年にEU/EEA国家を発着する自社便について総計123万トン少々の炭素排出量があるが、ほぼ600,000の無料排出枠を配分として受け取り、残り約630,000の排出枠の購入が残っている。1トンあたり約6ユーロの取引価格と仮定し、ある割合の排出物はEU/EEA内の便に由来するだろうという事実を考慮に入れると、いずれにせよ改正制度の下での責任は負うことになるので、必要な排出枠の購入費用は350万ユーロ(400万ドル)を超えていた可能性があり、それに関してこのエアラインは申し立ての中で英国からの償還を求めている。

これまでの裁判の判決では、スイスのような非EU加盟国に対してEUが異なる扱いをすることが同等扱いの原則により認められないことになっており、たとえこの原則が適用されたとしても、この場合には違反ではなかった。しかし、Vos判事が裁定する最高裁判所訴訟規則では、その原則の範囲に十分な疑いが存在すると判明し、今回のケースではその原則の適用について、EU指令が無効かどうかを裁定する権限を有する唯一の法廷であるECJへ付託することが正当化された。

「欧州委員会とEU議会は、スイスを除外扱いすることを正当化するための十分な努力をしていないという議論には説得力があると私は思う。」と判事は判決で語った。「まず、スイスが他の多くの第三国と比べ、政治的、経済的、地理的に全く異なる立場にあることは私も認める。しかしその特殊な立場により特別扱いは自動的に正当化されるということではない。」

SWISSの広報担当者はGreenAir誌に対してECJで引き続きこの件を追求することは認めたが、その詳細についてさらにコメントすることは断った。

もしECJがSWISSの訴えを認める判決を下した場合には、2012年にスイスを発着してこれらのフライトに関する排出量を報告し、それに従って対応する支払いを行い排出枠を放棄した他のすべてのエアラインに影響を及ぼすことになる。

欧州委員会は昨日、EU以外に本拠を持ち、EEA内でフライトを運航した100社を超える運航業者を含め、2013-2014年の期間は、EU ETSの対象になる航空排出物の99%でEU ETSが順守されたとの順守のレベルを報告した。EEA内にある空港間の航空機運航によるCO2排出量の検証済みの数字は、2014年には5,490万トンにのぼり、2013年の5,340万トンから2.8%増加したと述べている。

中国国際航空はアテネ−ミュンヘン間のEU内定期便を運航してきた。