ロンドン・ヒースロー空港 London Heathrow Airport

1.基本情報

● IATA/ICAO CODE LHR/EGLL
● 国・地域 イギリス
● 所在地 ロンドン・ヒリンドン特別区
● 運営者 イギリス空港会社(BAA)

※英国内には57の空港があり、そのうちの30空港は主要空港で、残り27空港は小規模空港である。最大の空港はヒースロー空港であり、ガトウィック、スタンステッド、マンチェスターが続いている。ヒースロー空港はイギリス空港会社(BAA Ltd.)により運営されている。

1 空港をとりまく歴史及び発着回数など運航データ・周辺空港
 ロンドン・ヒースロー空港は,1946年3月31日に民間空港として開港した。空港は,ロンドン都心から西に21 km離れたところに位置する。空港周辺は郊外住宅やビジネス街に囲まれているため,騒音問題は深刻であり,騒音規制が厳しいことで有名である。ヒースロー空港では1950年代に世界の中でもいち早く空港に地域の騒音低減を図るために運航制限を実施した空港(国)である。さらに,空港周辺対策は,1960年代から効率的な航空産業,地域社会への奉仕及び,仕事の提供,地域並びに国家経済と空港周辺に与える環境影響についてバランスよく考慮することを目的に進められている。
 英国には57の空港があり、そのうちの30は主要空港で、27は小規模空港である。なかでも最大の空港はヒースロー空港である。国際ハブ(拠点)空港として、およそ90の航空会社がヒースローを拠点としている。 Airport Council International (ACI:国際空港評議会)の統計によると2013年のヒースロー空港の利用客数は,72,368,061人/年であり世界第3位である。発着回数は480 931回、世界12位である。
 ロンドンにはヒースロー空港の他、近年LCCの拠点となっているスタンステッド空港(London Stansted Airport),ガトウィック空港(London Gatwick Airport)がある。ガトウィック空港は,ヒースロー空港の混雑を避けるために、アメリカ路線等が割り当てられている。滑走路は一本しかないが、騒音問題等による住民の反対によって滑走路増設計画はない。

● 統計 (ACI)
  利用者数(2013年) 72,368,061人  世界 6位
  発着回数(2013年) 480 931回  世界12位
    (出典:http://www.aci.aero/Data-Centre/Annual-Traffic-Data

● 滑走路
 東西に伸びる4,000 m級の2本の平行滑走路があり,70 %程度が西に向かって離着陸する。

方向長さ×幅
09L/27R3902m x 50 m
09R/27L3660m x 50 m

● 空港の現況と将来プラン
 ヒースロー空港の旅客数は世界3位,発着回数は世界10位(2014年)であり,世界を代表する主要ハブ空港の一つである。しかし、滑走路は2本と他の主要空港に比べて滑走路数は少ないため、ヒースロー空港の処理能力は限界に達していると言われている。
 このような状況の中,過去に何度も空港容量拡張計画が持ち上がったが,周辺住民の反対や政権交代等により計画は凍結されてきた。2010年には政権交代により、前政権である労働党政権が承認した、ヒースロー空港の北側に第3本目の滑走路の増設を凍結した。
 ロンドンの空港処理能力拡大の案としては,ヒースロー空港への滑走路増設,周辺空港への分配案,ロンドン東部のテムズ川河口の人工島(ボリス島)に4本の滑走路を持つ新空港を建設する等の案が提案・検討されている。
 空港容量拡張に関する議論は、Airport Commission(空港委員会)によって議論されている。空港委員会のメンバーは,経済学者や様々な分野の専門家,空港関係者は一人のみの合計8人で構成されている。政府からも独立した委員会であり,公平性やバランスのとれた議論ができるように配慮されている。空港委員会は、2014年、ボリス島空港計画を却下し、ヒースロー拡大またはガトウィック空港に第2のハブを建設する計画を検討している。
 参考 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NB9LC96S972Q01.html

2. 騒音軽減の取り組み

● 空港周辺対策に係る財源・法令
○ 財源
着陸料体系:可変着陸料(Variable landing charges)
ヒースロー空港の着陸料は、航空機の騒音量に応じた着陸料を設定している。6つのカテゴリがあり、Chapter3を基準とし、それよりも騒音レベルが高い機材は着陸料が高く、騒音レベルが低い機材は着陸料が安くなっている

Noise Charging Category Ch2 Ch3 high Ch3 base Ch4 high Ch4 base Ch4 minus
Relative Charges
300%
300%
100%
基準
60%
50%
30%

・ 騒音超過課金制度
 各滑走路端に騒音モニターが設置されており,規制値を上回る騒音値を出した出発便を運航するエアラインには最大1,000 ポンドの課金が科される。規制値は日中(07:00-23:00)が 94dB、夜間(23:30-06:00)が 87dB、移行時間帯(06:00-07:00 と 23:00-23:30)が 89dB となっている。課金は「ヒースロー地域社会基金」を通じて空港運用の影響を受ける地域の様々な地域社会プロジェクトに分配されている。

○ 法令
 イギリスにおける航空機騒音の法的責任はイギリス民間航空法(1982)の第78,79、80条に定められている。運輸大臣に航空機の離着陸に伴う騒音や振動の制限や緩和を目的とする規則や要請を定める権限が付与されている。
 ヒースロー空港周辺の環境対策は,航空安全保障に関する法律,規制等は中央政府 (DFT:Department of Transport)及びCAA (航空局)が担当している。その他に,騒音管理,ノイズコンター作成等も行っている。政府は主に,ヒースロー空港とガトウィック空港,スタンステッド空港での騒音管理,規制を行っており,その他の空港については,地方自治体が担当し,地方の実情に応じた規制や管理を行っている。ヒースロー空港及び,ガトウィック空港,スタンステッド空港の騒音コンターは政府が毎年作成している。作成は、航空局内のERCD (Environmental Research and Consultancy Department)が行っている。
 ヒースロー空港会社では,空港周辺住民の生活の質を高めるために,ICAOが示すBA (Balanced Approach) 4つの主要要素 (発生源の削減,騒音低減運航方式,土地利用計画と管理,航空機の運用上の制限)を組み合わせて行うBA(Balanced Approach)のほか、Communication/engagement (コミュニケーション/約束・協調)も重要であるとして騒音対策・管理を行っている。

①航空機騒音の発生源対策

種類 制限の有無
チャプター2適合機材制限 1) 制限あり
チャプター2適合機の段階的退役 2) 制限あり
チャプター3適合機材制限 3) 制限あり
Chapter 2 75,000ポンド以上の機材は、EU加盟国の空港で運用禁止となっている
2002年4月1日から、EU加盟国の空港において運用されている75,000ポンド以上の民間亜音速ジェット飛行機は、EU指令(92/14/ EEC)に従い、Part II、Chapter 3, Volume 1 of Annex 16に定める基準を遵守しなければならない。

②騒音低減のため運航規制等の工夫

 ロンドン・ヒースロー空港で行われている、騒音低減のための運航規制や滑走路使用法は下記の通りである。

内容 備考
連続降下進入方式 実施
高降下角進入方式の試行1) 2015年8月19日から2016年3月16日までの期間
3.25度に設定した進入方式を試行している
待機旋回 効率の良い着陸誘導
急上昇方式 実施
優先飛行経路 3) 全ての離陸機は高度4000フィートまではNPRsと呼ばれる出発経路を使用
滑走路交代運用方式 4) 2本の平行滑走路をそれぞれ離陸、着陸専用として運用し、毎日15時に離陸滑走路と着陸滑走を交代
補助動力装置(APU)の運用制限 夜間(2330-0600)に実施
空港の夜間制限 ・APUの運用制限(2330-0600)
・リバースの使用抑制(2330-0600)
・騒音の最大値の制限89dB(23:00-7:00)
・    〃        87dB (23:30-6:30)

1) 高降下角進入方式の試行
8海里(10マイル)手前から航空機の進入降下角度を3.25として着陸する方式が2015年8月19日から2016年3月16日までの期間に試行されている。この方式により8海里の地点においては、通常より170フィート高くなることが見込まれる。
地上で聞こえる騒音を小さくするために着陸機の進入を急勾配にするヒースローの試行が開始される
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=2121
http://www.heathrow.com/noise/latest-news/steeper-approaches-trial-_-september-2015

2)待機旋回(ホールディングスタック)
ヒースロー空港は交通量が多いため、に到着する航空機の大半を”ホールディングスタック”と呼ばれるエリアに待機旋回させて、効率の良い着陸誘導を行っている。
参考 URL: 燃料消費と二酸化炭素削減を実現するための、ヒースロー空港行きの航空機のロンドン上空での待機時間削減に対する国境を越えた試行

3) 優先飛行経路 Noise Preferential Routes (NPRs)
ヒースローを離陸する航空機はすべて、高度4000フィートまでは騒音規制によって指定されたNPRsと呼ばれる出発経路を使用しなければならない。

東風運用時の出発経路

西風運用時の出発経路

4) 滑走路交代運用方式(Runway Alternation)
ロンドン・ヒースロー空港では、2本の平行滑走路をそれぞれ離陸、着陸専用として運用し、毎日15時に離陸滑走路と着陸滑走を交代している。こうした運用により、空港近傍の飛行経路直下の地域は、一日の半分は航空機が上空を飛ばないことになる。騒音から解放されるため、この時間をレスパイト(Respite Period)と呼ばれる。ただし、この運用はクランフォード合意があるため、西向き運用の場合に限られている。クランフォード合意については、話題を参照。

Civil Aviation Act 1982に基づく主な運航方式及び,夜間の運航規制事項
- 離陸後,航空機は出発経路に沿って滑走開始から6.5 km
- で1,000 ft以上の高度が獲得できる運航方式でなければならない。
- 日中(7:00-23:00)はどの航空機も,離陸後定められた10地点の騒音監視点で騒音レベルの最大値(LAmax)が94 dBを超えてはならない。
- 夜間(23:00-7:00)は騒音レベルの最大値(LAmax)が89 dB,23:30-6:30はLAmax=87 dBを超えてはならない。
- 規定された制限値は,騒音監視点(10地点)と空港の標高差による補正が適用される。
- 規定された制限値の違反を決める際は,追い風の場合に限り,風速に応じて最大2 dBまで無視することができる。

③ 空港周辺対策・土地利用

 ヒースロー空港株式会社は地方自治体と協力体制を組みながら,騒音問題等の地域問題の解決を行っている。空港周辺対策の主な内容は,防音工事,移転補償,その他がある。
[table]
補償に関する新しい取り組み
 新たに対策区域内に居住した世帯に対しても全て二重窓工事を補償するQuieter homes. New help from Heathrowを実施。 対象となる地域
- Horton:空港の西(ウインザーの東)
- Colnbrook:空港の北西(ウィンザーの東)
- Stanwell North:空港の南
- Syon:空港の東(リッチモンドの北西部付近.空港から5kmくらい)
- Isleworth:Syonのすぐ近く
- Feltham North:空港の南東
- Windsor:空港の西

騒音コンター
 日中(7時~23時)のLAeq,16hが57 dBでコンターを作成している。夏期のデータに基づいたActual modelのコンターと,過去20年間の夏の時期の平均比率を用いたStandard modelのコンターの両方を作成している。夏期のデータに基づくのは、イギリスは冷房がほとんど設置されていないため,殆どの住宅は窓を開放するため建物内に侵入する騒音量は冬期に比べて大きく、苦情の発生も夏期の方が圧倒的に多いことが理由となっている。
 PPG24は廃止されているが,過去のデータとの比較,人口推移を把握するために現在もLAeq,16hが57 dBでコンターが作成されているとのことであった。なお,イギリスではEC-Directive (EC指令:2002-49)のNoise Action Planの要求に応えるため,Lden=55 dBでも3年に一度コンターが作成されるとのことである。PPG24については、その他の章で説明する。

④ 航空機の運用上の制限

- 夜間運航規制
航空機の騒音レベルによって7つのカテゴリで分類されているクォータカウント(Quota Count :QC)によって夜間運航が規制されている。なお、この運航規制は、ロンドンの3空港(Heathrow、Gatwick、Stansted)で行われている。
• 23時から7時までは、騒音レベルが高いQC8とQC16の航空機は、離陸および着陸することはできない。
• 23時30分から6時までは、QC4、QC8およびQC16の航空機は、離発着することは出来ない

割り当て数(クオーターカウント Quota Count(QC))システム(20012年夏まで)
[table]
個々の航空機のQCは、離陸と着陸別に年2回公布される
(出典:  http://www.heathrow.com/noise/heathrow-operations/night-flights
     https://en.wikipedia.org/wiki/Quota_Count_system
     http://www.aef.org.uk/2005/10/21/night-noise-quota-count/

3. 環境に配慮した取り組み

・騒音監視システムおよび飛行経路監視システム及び苦情受け付け方法

システム提供情報
騒音監視システムWebTrak
  URL
  騒音監視局12局
  提供情報・航空機騒音
・周辺騒音
飛行航跡システムWebTrak
  URL
  提供情報・出発・到着・上空通過の種別
・航空機識別
・機種
・出発/到着空港
・高度
・速度
苦情の受け付け1)電話、電子メール
WebTrak

1) 苦情は、ヒースロー空港会社が無料電話や電子メールにより受け付けている。寄せられた苦情については、ヒースロー空港会社が分析を行っている。苦情は、飛行ルートの変更時に苦情が増加している。苦情が多い時間帯は夜間の23時半から翌朝6時であり、時期は窓を開放する夏期が多い。なお,定期的に電話によって苦情を訴える者は全体の30 %程度であり, こうした者の苦情処理が最も困難であるとのことであった。

・ステークホルダー・協議会
 近年、ヒースロー空港に関して様々な政府の協議会が開催され、離陸騒音制限、夜間の飛行や夜間の滑走路使用を検討している。

主に以下のような諮問委員会,協議会,作業ユニット等ある。
- ANMAC(Air Noise Monitoring Advisory Committee):航空機騒音監視諮問委員会
- HACC(Heathrow Airport Consultative Committee):ヒースロー空港諮問委員会
- NTKWG(Noise and Track Keeping Working Group):騒音及び飛行経路の遵守作業部会
- LFF(Local Focus Forum):地域社会に根差した公開討論会

4. その他

・健康影響調査
 2013年10月8日、「Aircraft noise and cardiovascular disease near Heathrow airport in London: small area study」がBMJに掲載された。同調査は、ヒースロー空港周辺に住む360万人を対象に調査したものである。昼間の航空機騒音が小さい地区と高い地域を比べたところ、騒音が大きい地域ほど脳卒中・冠動脈疾患・心血管疾患の入院率が高い傾向がある。との報告であった。この論文が発表されたことから、ヒースロー空港会社には問合せが一時的に殺到したとのことである。
  参考BMJ 2013; 347 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.f5432

・ 第三滑走路をめぐる話題
 ロンドン・ヒースロー空港の2 本の滑走路を有するにもかわらず、世界の空港航空機発着回数ランキングは世界第 10 位 (2014 年)であり,空港容量は既に限界に達している。
 ブラウン労働党政権下で、ヒースロー空港の第3滑走路の建設を決定していたが、2010年総選挙で、保守党、自由民主党は、建設反対を訴えた。
 2012年、キャメロン連立政権誕生後、ヒースロー空港第3滑走路の建設は棚上げされた。 しかし、空港の能力拡張は、経済的、政治的に急務であり、その結果、キャメロン政権は、第3者の「空港委員会 Airport Commission(デイビス委員会)」を設けて、どのように対応するか勧告を出すよう求めた。空港委員会は,2015年夏までにヒースロー空港の新しい滑走路を西側に建設する案及び,スタンステッド空港とガトウィック空港の滑走路増設について,明確な評価を行う必要があるとしている。 2013年5月に「A quieter Heathrow 」が発表され,政府に航空機騒音の低減を約束させた。レポートには例えば,低騒音機材導入強化,騒音緩和と土地利用計画,運航規制,地域社会との協力等が報告されている。
滑走路拡張に関する進捗2(2013年7月)滑走路の西側拡張,4本の滑走路を新設することにより騒音曝露人口を大幅に減らし、ヒースロー空港の処理能力を現在の2倍に増やすと予測。ただし,今後調査が必要。なお、現在ヒースロー空港に通じる鉄道の改修工事が進められている。

・英国の空港拡張計画:3つの選択肢とは?

・PPG24(Planning Policy Guidance:英国政策指針計画)廃止、その後の経過
 1994年にイギリス環境省により発行されたPPG24 (Planning Policy Guidance:英国政策指針計画)では,地域計画当局による環境保全計画案の方針及び,騒音に曝露されている地域を保全するための指針等が記載されている。イギリスの土地利用は2012年までこのPPG24に基づき規制されてきた。しかし,現在は政権交代により2012年3月にPPG24 は廃止された。
 PPG24は、道路交通騒音,鉄道騒音,航空機騒音および複合騒音を対象としている。騒音暴露レベルによりA〜Dの4つのカテゴリに区分される。下表にカテゴごとの用件を示す。
騒音暴露カテゴリ(Noise Exposure Categories)

カテゴリ提供情報
Aカテゴリの上限の騒音レベルを望ましいレベルと見なすべきではないが、住宅開発を許可する際の是非に関する決定要因として騒音を考慮する必要はない。
B開発の許可にあたり、騒音を考慮するとともに必要な防音対策を施す必要がある。
C通常住宅開発は許可されるべきではないが、他に代替地がない等の理由により開発を行う場合には適切な防音対策を施す必要がある。
D原則として住宅開発は許可されない
 ANNEX1には、騒音ごとのカテゴリごとの騒音値が示されている。航空機騒音に関しては,騒音レベルが日中57 dB以上,夜間48 dB以上であれば何らかの騒音軽減策を講じることが必要とされ、日中74dB以上、夜間66dB以上の地域は、原則として住宅開発は許可されない。なお、これらは新規の住宅地開発の再に適用されるものである。学校や病院等については、騒音レベルの上限は60 dBとしている。

音源別/時間帯別の適切な騒音曝露レベル(PPG24)
  カテゴリ毎に適した騒音値(L Aeq.T)[dB]
時間帯 A B C D
  道路交通騒音
7:00-23:00(日中) <55 55-63 63-72 >72
23:00-7:00(夜間) <45 45-57 57-66 >66
  鉄道騒音
7:00-23:00(日中) <55 55-66 66-74 >74
23:00-7:00(夜間) <45 45-59 59-66 >66
  航空機騒音
7:00-23:00(日中) <57 57-66 66-72 >72
23:00-7:00(夜間) <48 48-57 57-66 >66
  複合騒音
7:00-23:00(日中) <55 55-63 63-72 >72
23:00-7:00(夜間) <45 45-57 58-66 >66

 2012年3月、PPG24 を廃止し、それ以降は Aviation Policy Framework 2013に基づき騒音管理が行われている。なお、Aviation Policy Framework2013には,上記の表のように具体的な数字を基づく土地利用規制は行われていない。これは、都市計画は地方自治体の規模や人口密度や地域性等が大きく影響するため、地方自治体への権限委譲が重要であるという新しい政権の考え方に基づいたものである。
 2015年におこなった海外調査においてPPG24廃止後の経過を調べたところ、廃止されて一年程度が経過しているが、現在もPPG24の内容に沿った対策・規制等を行っている自治体も多数あるということが分かった。

・騒音に関する苦情の現状と遠方地域からの苦情と対策
 ヒースロー空港は,ロンドン都心から西に21 km離れたところに位置する。空港周辺は郊外住宅やビジネス街に囲まれているため,騒音問題は深刻であり,騒音規制が厳しいことで有名である。特に空港西部の地域の住民約72万5,000人は航空機騒音に悩まされている。西側地域でも特にRichmond(リッチモンド)というロンドンでも富裕層が居住する地域からの苦情が多い。
-補足:ヒースロー空港周辺の風向は西風が多いため、同空港の離発着も西向きが多い。ロンドンの人口が多いため,できる限り離陸時はロンドンを避けた運用のため、西側優先(Westin preferential)というポリシーを政府が検討している。

・ヒースロー空港におけるRespite Period
ロンドンのヒースロー空港は世界でも有数の混雑空港であり2本の平行滑走路を有し、それぞれを離陸専用,着陸専用に離着陸を分離して運用している.これを滑走路交代運用方式(Runway Alternation.Rwy.Alt.)と呼ぶ.通常、1本の滑走路を離着陸共用(これをMixed-modeと呼ぶ)で運用した方が容量を増やせるが、分離運用を行うのは騒音対策を配慮してのことである。滑走路交代運用方式は、毎日15時に離陸滑走路と着陸滑走路を交代し,空港近傍の飛行経路直下の地域に対して1日の半分の時間を航空機騒音から解放される時間(Respite Period(一時中断・小休止))を設けるものである. なお、この滑走路交代運用方式を導入する際に、1950年代から口答で同意されたクランフォードの契約を終了した。

・Cranford(クランフォード)契約解消の経緯
 ヒースロー空港の北側滑走路の東側直近に位置するCranford地区の上空は、離陸経路として使用しない、との1952年に英国政府とCranford住民との間で結ばれた合意。離陸音は着陸音よりもはるかに大きかったため、北側滑走路の東端のすぐ脇に位置するCranford村は離陸による騒音影響が甚大であった。
 現在、ロンドン・ヒースロー空港では、2本の平行滑走路を離陸専用、着陸専用として運用し、毎日15時に離陸滑走路と着陸滑走を交代している。空港近傍の飛行経路直下の地域は、一日の半分は、航空機騒音から解放される時間(Respite Period)を提供する。この運用方式は滑走路交代運用方式(Runway Alternation)と呼ばれる。なお、この滑走路交代運用方式は、クランフォード合意があるため、東風運用時には実施されていない。(原則、航空機は向かい風で飛行する。前述の通り、北側滑走路の東側は離陸運用が禁止しているため、東に向かって離陸することができない。)そのため、北側滑走路の西方に位置するWindsor地区上空は、東風運用時には常に着陸軽度下となってしまう。そこで、騒音のより公平な負担を実現することを目的として2009年1月に当該合意を解消することを決定した。

・早朝到着便の特定経路への誘導」早朝時間のレスパイトトライアル
 ヒースロー空港では04:30~06:00の早朝帯に平均17便の航空機が着陸する。この早朝における航空機騒音を軽減するため、ヒースロー空港当局、英国航空、英国航空交通事業(NATS)、航空機騒音反対運動のHACAN(Heathrow Association for the Control of Aircraft Noise)の共同作業において試みられた。
 ヒースロー空港への進入経路はロンドン上空に広がっている.早朝騒音軽減試行では、ヒースロー空港への着陸進入開始点を明確に特定して誘導する。試行は、各地区に2つの空域を設定して1週毎に交互に空域を使用し,航空機は,その週に使用されない空域を避けて誘導されるものである. 風向きによって離発着する方向が異なるため、試行区域は4カ所(2カ所は空港の東側、2カ所は西側)ある。東側はVauxhall、Wandsworth、Battersea、Clapham Common、 Westminster、BermondseyとStreathamが含まれ、西側はBinfield、Reading、 Purley-on-ThamesとWinnershが含まれる。これら取り組みについて,ヒースロー空港の環境対策部長Matt Gorman氏は、「飛行経路に些少な調整でも経路下の住民には大きな影響を及ぼす可能性がある。」と語り、また,HACAN代表のJohn Stewart氏も「小休止時間帯は経路下の住民にとってとても大切である。我々はこの取り組みを歓迎する。」と述べている。試行は11月5日から5ヶ月間の予定で実施される。

● ICAOとヨーロッパにおける連続降下方式の違い
 ICAOでは連続降下方式をCDO: Continuous Descent Operationと表記している。これは、連続降下を単に進入(APPROACH)だけでなく、進入に向けた降下フェーズである到着(ARRIVAL)まで含めて実施するべきとの考えによるものである。
 一方、欧州では、より実施しやすい低高度からの連続降下方式にも環境への効果があることを重視し、ICAOにおける表記がCDOとなった後も引き続きCDA: Continuous Descent Approachの表記を使用し、進入フェ−ズにおける連続降下にも一定の地位を与え、実現可能なものから積極的に実施している。

ICAO CDOマニュアルにおける定義:
「CDOとは、空域設計、方式設計及び航空管制の向上により実現される運航方式であり、到着機が可能な限り最小のエンジン推力及び理想的な低抵抗の状態を保ちながら、最終進入フィックス又は、最終進入開始地点までの連続的な降下を行う方式」
 注1理想的なCDOは巡航高度から開始され、水平飛行、騒音、燃料消費、排出物及び管制官-パイロット間の交信を削減するとともに、パイロット及び管制官の予測性並びに飛行の安定性を向上させるような降下プロファイルを使用する。
 注2巡航、若しくは着陸のための降下の可能な限り高い高度からCDOを開始することにより、燃料消費、騒音及び排出物の削減について、最大の効果を達成することが出来る。

英国における定義:
 騒音軽減を目的として2002年から先行して導入している英国では、連続降下方式を以下のように定義づけている。
「連続降下進入方式(Continuous Descent Approach :CDA)とは、到着機の騒音軽減手法の一つであり、パイロットが管制官からの転移高度(Transition Altitude:標準大気による高度計規制値適用高度)以下への降下の許可を受け、連続的降下を達成するために最適な降下率で降下を行い、当該降下において、管制官からの速度調整にかかる指示を満足させつつ、水平飛行への修正を行うことなく適切な高度と距離でグライドパスに会合させる方法」

ユーロコントロールにおけるCDA導入ガイダンスの定義:
 ヨーロッパにおけるCDAの運用は、英国をはじめとする各国が独自に実施していた状況であったことから、ユーロコントロールはヨーロッパ内での調和を図るため、2007年に「CDA導入ガイダンス」をとりまとめた。
「CDAとは、航空機の運航方式の一つであり、運航の安全を損なわない範囲で、かつ、公示された方式及び航空管制の下において、可能な限り最適な位置から、水平飛行を避けて最小の推力で降下する方法」

参考文献 騒音軽減のための連続降下方式について 吽野一理 航空環境研究 No.15,2011 p8-11

● その他ヒースロー空港に関する情報