ICAO環境レポート2019年版の公表

環境レポートのダウンロード

 International Civil Aviation Organization (ICAO)の3年毎の総会開催年にあたる今年は、9月24日から10月4日の日程で本部のあるカナダ・モントリオールで第40回総会が開催された。この総会に合わせて公表された環境レポート2019年版について紹介する。
 このレポートは航空の環境影響に係わる主要テーマが各章に割り振られ、「第1章:航空と環境の概要」、「第2章:航空機騒音」、「第3章:地域の大気質」、「第4章:気候変動影響軽減のための技術と運航」、「第5章:気候変動影響軽減のためのサステナブルな航空燃料」、「第6章:気候変動影響軽減のためのICAOのCORSIAの取り組み」、「第7章:気候変動への適応」、「第8章:循環経済を目指して」、「第9章:加盟国の行動計画と能力開発」、「第10章:関係機関との協力関係」に係わるそれぞれ数件の記事がまとめられている。
 第2章の航空機騒音については、「国際民間航空に係わるシカゴ条約第16付属書(環境保護)の過去50年間の経緯」、「航空機騒音影響白書」、「空港周辺の騒音コンター図計算のために推奨される方式-ICAO Doc 9911の最近の更新」、「空港周辺の航空機騒音レベル確定のためのフライトデータレコーダーのデータ使用」、「亜音速機の技術的解決策を求める騒音研究の現状」、「航空部門の次のステップである環境に優しい超音速飛行」、「運航方式による航空機騒音削減の可能性」、「航空機騒音のうるささ」、「騒音軽減のための基盤となる関係者の取り組みと機能準拠型航法」についてそれぞれ記事がまとめられている。この中で空港周辺の地域社会への騒音影響に関する主要トピックスについて最新の知見がまとめられている「航空機騒音影響白書(Aviation Noise Impacts White Paper)」(p.44-61)について各項目からの抜粋を載せる。

地域社会における航空機騒音の評価・・・同じ条件下で、一定レベルの騒音に対して30~40年前の住民より現代の人の方がよりうるささを感じるということはない。しかし、音響的要因と非音響的要因における変化(空港の変化の度合いの大きさや運航便数の多さ等)が、一定の騒音レベル(LdnかLden)に強くうるささを感じる人々の数に影響するように見える。従来の曝露量と反応の関数を見直し、様々な音響的要因と非音響的要因の影響を考慮に入れて多様化させる必要がある。変化の度合いの高低は特に重要な影響を及ぼすように見える。

睡眠阻害・・・聴覚系には常に環境を探査して潜在的な脅威を監視する機能がある。人間は眠っている間も自分を取り巻く音を知覚し、評価して反応している。音圧レベル(SPL)が同じ音では、潜在的に脅威となる騒音事象が睡眠からの覚醒を呼び覚ますきっかけとなる可能性がある。航空機騒音は間歇的な騒音であり、睡眠への影響は主に発生回数と個々の騒音事象の音響的特性(例えば最大SPLやspectral composition)が決定する。しかし、いずれにせよ、騒音は睡眠を阻害するが、状況(例えば睡眠の深さ)や個人的条件(例えば騒音感受性)の影響を受ける。夜間騒音曝露に対する感受性はかなりの個人差がある。老人や子供や交代勤務労働者、また、これらの人々の中で健康を害している人が騒音による睡眠阻害のリスクを抱えていると考えられる。

健康影響・・・騒音曝露と健康の関連性を調べた調査がここ数年でかなり増えた。最良の疫学的証拠は心臓血管疾患に係わるもので、数百万人を対象に、地域住民をベースとした調査の分析があり、特に虚血性心疾患の新規症例に係わるものがある。航空機騒音に関する発見は、より多くの調査で扱われ証拠の質が高いと格付けされている道路交通騒音に関する発見と一致している。疫学的調査の結果は人間と動物の現地調査及び室内実験調査の裏付けを得て、騒音は心疾患のリスクファクターに関係する機構経路に生物学的作用を及ぼすことを示している。

子供の学習への影響・・・航空機騒音にさらされると子供の認知能力である読解力や記憶力、標準化された学力テストの点数に影響がでることには確かな証拠がある。そのことが、高いレベルの航空機騒音にさらされる可能性のある学校の防音工事の支援の必要性を明確にする。航空機騒音が子供の学習にどのようなメカニズムで影響を及ぼすのかを裏付ける様々な説明が提示されているが、高いレベルの航空機騒音にさらされる子供に対して物理的、教育的、心理的介入を行うための政策決定への情報提供として、将来の調査ではこれらのメカニズムを検証することが必要である。

ヘリコプター騒音・・・ヘリコプター、低空を飛ぶ軍用機、航空機の地上騒音のような特定の騒音源については、航空機騒音の受け取り方から導き出した曝露量と反応の関係が必ずしも正しくないとみなされていた。ヘリコプター騒音によるうるささについては知見がほとんどなく、ヘリコプター騒音は戸外でのA特性騒音レベルが固定翼機と同程度かむしろ低い場合でも、やかましいと感じる頻度が高いと過去数件の調査が報告している。これは重量のある軍用ヘリコプターも、より軽量の民間ヘリコプターでも同様に観察されている。最近では軽量の民間ヘリコプターが使用する飛行経路の直下か近接している3箇所の住宅地で調査が行われた。この調査の根拠となるのはわずか3回の調査だが、軽量の民間ヘリコプターについては固定翼機や回転翼航空機への反応との間で明確な差異はないことが明らかだった。騒音曝露レベルとは関係無い、ヘリコプターが運航されることによるうるささがあることを調査は示していた。

超音速機の巡航時騒音・・・超音速飛行によるソニックブームの影響のモデル化と軽減のための多くの進展があった。公衆への影響評価のために現在進行中の調査では、新型の超音速機による衝撃音は小さく、従来のソニックブームよりもやかましさはかなり小さいと示している。衝撃音の小さいデモ機を使って行われる次回の地域社会での実験では、騒音曝露とそれによる公衆の反応評価に必要なデータが収集される予定である。

UAM/UAS騒音・・・Urban Air Mobility(UAM)とは、地域社会で運航される小型の無人飛行装置(sUAS)から数人の旅客を乗せられる大きさの飛行体まで、一定の幅の飛行体の概念と任務を指す。これらは地域社会における新しい騒音源になる可能性がある。趣味で利用する人、営利目的の事業体、軍、政府機関、科学者など、様々な方面からUAM機への関心が高まっている。これらの交通手段や荷物配達を目的とする新しい騒音源のうるささに公衆が悩まされる可能性があるという予備的証拠がある。これらの新型飛行体による騒音への主観的反応についてはほんのわずかな調査しか行われていないが、従来の航空機とは異なる騒音特性を持つという兆候が、その騒音を人間がどう感じるかについて理解・予測するための一層の調査を正当化している。

貨幣価値で表す航空機騒音の経済的影響・・・睡眠阻害、心筋梗塞、やかましさによる生活阻害、脳卒中、認知症他の健康影響は騒音の経済的費用としてとらえられる傾向が強まっている。特定の主要空港周辺の年間騒音費用を見積もった最近の調査結果では、台北松山空港は3,300万ユーロ、ヒースロー空港は8,030万ポンドという数字になった。公表されてはいないが、学生の論文(Kish, 2008)が示唆するところでは、世界の181空港の航空機騒音の年間費用は10億ドルを超える。騒音は空港拡張を検討する場合に大きな検討課題になりうる。航空機騒音が近隣社会の生活をどの程度阻害するかは、空港の開発や、運営に係わる分析や計画決定で考慮される要素である。