単純構造のブラストフェンスで空港周辺の大気質改善を行うための実験が英国のCranfield空港で実施されました。工学・物理科学研究委員会(Engineering and Physical Sciences Research Council, EPSRC)のホームページで概要が紹介されましたので、ご参考までに要約を掲載します。
原記事:http://www.epsrc.ac.uk/newsevents/news/2013/Pages/
virtualchimney.aspx
2013年1月31日付けプレスリリースより 最近の調査により、バッフルと呼ばれる単純構造の「ブラスト」フェンスが空港周辺住民のための大気質改善をもたらす可能性があるとわかった。
滑走路の背後に設置したバッフルは「仮想煙突」として機能し、航空機エンジンからの排出物を1カ所に集めて上方へ流し、より効果的に消散させられるので、結果として近隣住民への環境影響を低減する。
試作型バッフルはEngineering and Physical Sciences Research Council (EPSRC)の資金供給により、Manchester Metropolitan大学、Cranfield大学、 Southampton大学そしてCambridge大学の研究者チームによって実験が行われてきた。
Cranfield大学による、様々な形状のバッフルを使用した予備的風洞実験の後、3列のバッフルを多数並べ、レーザースキャニング(Lidarといい、光学的レーダーである。)と化学的センサー技術を用いて、BedfordshireにあるCranfield空港で実験が行われた。低価格の農業用防風ネットを軽量フレームに張って組み立てた、人間の身長より低い試作型バッフルを使用することで、航空機の排気プルームを空港の境界柵内で地面から上昇させることができると、この実験が実証した。
計画を指揮したMike Bennett博士によれば、:「飛行場の表面は通常、草が覆っていて、風がその上を自由に吹き渡っている。多数のバッフルを並べることで表面に空気力学的な意味でのでこぼこを作る。これが運動量を排気ジェットから吸い上げて、自然の浮力が作用し始めるのを可能にする。バッフルを適切な角度に配置することで、排気を上方へと押し上げてやることも可能になり、排気の地表からの上昇を促進する。」
「我々が実験したバッフルは、この鉛直流を最大限に利用するためと、バッフルが機能停止しないよう確実にするために、40°から60°の傾斜をつけた。排気ガスがそれでもいずれは地上へとまき散らされるだろうが、濃度は低くなっているだろう。航空機が離陸する場所の背後にある外周フェンスで表面濃度を約50パーセント低減できればよいと思っている。」
欧州内の多くの主要空港周辺で二酸化窒素(NO2)の長期地表面濃度は、EUが設けている法定限度をすでに超えている。
実験の目的は、バッフルの空気力学的作用を基本的に検証することだった。試作品の設置は一時的だったので、常設のためにどのように設置するかという観点からは遙かにかけ離れたやり方で組み立てられた。各バッフルはジェットエンジンの80から90ノットの爆風に耐えられるように十分頑丈でなければならないが、航空機が衝突しそうな時は航空機を傷つけることなくつぶれるように十分壊れやすくなければならない。実験では、試作型バッフルの幅を約2メートルに制限することでこれは達成されたが、常設するなら、かなり幅を狭くすることで実用可能なものになるだろう。本格的使用にあたっては、滑走路背後に、ほぼ1,000平方メートルに渡ってバッフルを設置する必要があるだろう。
実験では、エンジン騒音の流れをバッフルが適度に弱めることも分かり、空港の周辺部でジェット噴流を低減するにも有益であることが判明した。
Bennett博士によれば、「2年か3年以内に空港でバッフルの設置を開始できない理由はどこにもない。」とのことである。「地域的大気質の点から見れば、バッフルは、NOxの低いジェットエンジン開発のための、時間と費用のかからない補完対策の代表である。」
EPSRC(Engineering and Physical Sciences Research Council)が資金供給し、2008年設立で、航空分野における最先端の研究を請け負う、空港エネルギー技術ネットワーク(Airport Energy Technologies Network, AETN)の援助で計画は実施された。
編者のための注記
2012年秋に完了し、EPSRCの資金供給をトータルで £413,000受領した、英国研究会議(Research Councils UK, RCUK)のエネルギー関連研究プログラムである「民間航空機の排気ジェットの実用的軽減技術の研究」の3年計画の一環としてバッフルの開発が行われた。 Cambridge大学は屋外実験での大気質監視のための専門技術を提供した。Southampton大学の音響振動研究所が音響学的調査を行った。
Cranfield空港の屋外実験で使用した航空機は自然環境研究委員会(Natural Environmental Research Council, NERC)の空中大気測定のための設備で、4発のBAe146型機である。航空機は全部で12回離陸し、各回とも、5〜15秒間、離陸に先立ち滑走路端でエンジンをふかした。
Lidarは光学的レーダーである。排気プルームの拡散を監視するために排気プルームをパルス状の紫外線レーザー波でスキャンした。
空港エネルギー技術ネットワーク(AETN)に関連した初期のプロジェクトは、2009年11月のEPSRCのSandpit(砂場)行事の出力だった。Sandpitsは特定の論点を深く掘り下げて革新的解決策を見いだすために自由な発想が奨励されている集中公開討論会である。
工学・物理科学研究委員会(Engineering and Physical Sciences Research Council, EPSRC)は、工学・物理科学の研究に資金供給するための英国の主要機関である。EPSRCは、英国が次世代の技術変革に対処するのを支援するため、研究と卒後研修に年間8億ポンド出資する。カバーする領域は情報技術から構造工学、そして数学から材質科学に及ぶ。この研究が英国の将来の経済発展の基盤を形成し、国民の将来の健康やライフスタイルや文化の向上の基盤を形成する。EPSRCには他の研究領域を担当する研究委員会との連携がある。英国研究会議経由で、これらの研究委員会は共通の懸念事項について共同で作業を行う。
英国研究会議(RCUK)のエネルギープログラムの目的は、英国のエネルギー目標と環境目標及び政治目標を、国際的レベルの調査と訓練を通じて達成させようというものである。エネルギープログラムは低炭素の未来を開拓するための調査と技能に5億3千万ポンドを超える資金を投入している。これは過去5年間の実績額3億6千万ポンドの上に築かれている。
工学・物理科学研究委員会(Engineering and Physical Sciences Research Council, EPSRC)の主導により、エネルギープログラムはEPSRCの作業と、生命工学・生物科学研究委員会(Biotechnology and Biological Sciences Research Council, BBSRC)、経済・社会研究委員会(Economic and Social Research Council, ESRC)、自然環境研究委員会(Natural Environment Research Council, NERC)、そして科学・技術設備委員会(Science and Technology Facilities Council, STFC)の作業を融合する。
英国研究会議(RCUK)のエネルギープログラムは500を超える公的機関及び私的機関と密接な関係を持ちながら作業を行い、目下進行中の共同研究が1,100件ある。エネルギープログラムは英国政府が根拠に基づく決定や政策を行うのに役立っている。
Manchester Metropolitan大学は英国で最も広いキャンパスを持つ、学部課程の大学で、総学生数が37,000人を超え、職業教育と職業能力を重視している。150年の歴史があり、1992年にuniversityの地位を得た。
Southampton大学は英国における一流の教育・研究機関であり、工学、科学、社会科学、保健と人文科学の幅広い分野にわたる最先端の研究と奨学金で国際的に評価されている。
23,000人を超える学生と約5,000名のスタッフがおり、年間取引高は優に4億3,500万ポンドを超え、Southampton大学は工学、コンピューター科学そして医学に関して英国の一流大学の一つという知名度がある。学問の優れたところと研究に対する革新的で起業家的なアプローチを組み合わせて、学生とスタッフを学問追求に従事させ、学問追求意欲をかき立てるような支援を行う。
Southampton大学にはまた、音響振動研究所(Institute of Sound and Vibration Research)、 光電子工学研究センター(Optoelectronics Research Centre)、Web Science Trust and Doctoral training Centre, 健康と疾病に関する発生学的起源センター(Centre for the Developmental Origins of Health and Disease)、Southampton 統計科学研究所(Southampton Statistical Sciences Research Institute)などの世界の先端を行く研究センターがあり、Southampton大学はSouthampton 臨海キャンパスにある英国海洋学センター(National Oceanography Centre)の共同経営者でもある。
詳細についての問い合わせは以下まで:
Dr Mike Bennett, Manchester Metropolitan University, tel: 0161 247 6727.
画像はEPSRC Press Officeから入手可能である。
連絡先:telephone 01793 444404,
e-mail: pressoffice@epsrc.ac.uk
海外情報紹介 実質的に煙突の役割をする、単純構造のブラストフェンスが空港の環境汚染を低減する可能性がある。
- 2013年2月15日(金) 18:00 JST