海外情報紹介 合意には遠いのか、そう遠くはないのか−欧州委員会による国際航空に関するEU ETS提案は懸念されている。

原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=1770

 2013年10月18日金曜日−欧州空港から離発着する大陸間便による欧州空域内の航空排出物を2014年からEU ETSの対象とするという欧州委員会の提案が今週公表され、多くの関係者を驚かせた。今月初めの第38回ICAO総会で、第三国を市場に基づく国家的炭素取引制度やEU ETSのような地域的炭素取引制度の対象にするには事前に合意が必要であるとする制限を課すことにICAO加盟国は成功した。にもかかわらず、欧州委員会はその主権が及ぶ空域を規制するEUの権利を強く主張し、エアラインの業界団体は国際制度での合意を目指したICAOでのようやく手にした進展をEU提案が弱体化させる可能性を懸念して反応した。EU ETSが本来目指した環境有効性を大幅に減じるような空域の提案には至らないと信じる者もいる。
 世界のエアライン240社の代表である国際航空運送協会(IATA)は、水曜日に公表された欧州委員会の提案について「懸念と驚き」を表した(記事を参照のこと)。

 「2020年からの航空のカーボンニュートラルな成長という約束(CNG2020)を果たすための成功への鍵となる予定の、市場に基づく国際的対策(MBM)開発のための歴史的合意を得て、第38回ICAO総会は幕を閉じた。そのため我々は、欧州委員会が現在提言している一連の活動が、ここに至らせるまでの良識を無意味にする可能性があることを心配している。」とIATAの事務局長であるTony Tyler氏は語った。「欧州委員会の提案が欧州議会と欧州連合理事会との共同決定段階に移行するにあたり、国際社会を含めて広く利害関係者を巻き込んだ検討がなされるものと我々は信じている。」

 「ICAOを通じて国際的MBMを目指す過程で合意に至るように我々は皆懸命に作業してきた。欧州を含めた全員がCNG2020の全体像に集中し続けることを確保することは決定的な重要性を持つ。」

 欧州外部のエアライン業界団体からの代表者もまた、欧州委員会の意図に深い留保を表明した。

 「我々はこの展開を懸念し、傍観している。」とアジア・太平洋エアライン協会(AAPA)の事務局長であるAndrew Herdman氏は語った。「個々の政府の承認無しに国際エアラインを規制対象にすることは特に主要な発展途上国からの強い反対に会う可能性がある。このことはICAO総会でたどり着いた本質と精神に背く行為である。」

 「2020年までに国際的MBMを開発することで合意に達し、得られた良い進展を台無しにすることは我々には受け入れがたい。2020年までの国際的MBMの開発にこそ、我々の努力を結集すべきである。」

 欧州委員会の声明以前のブリュッセルでのスピーチで先週、アラブ航空会社機構(AACO)の事務局長である。Abdul Wahab Teffaha氏は、EUが非ヨーロッパ系の航空会社の二酸化炭素排出量を再び捕捉することを決定した場合に貿易戦争が起こる可能性を警告した。

 欧州委員会はその提案への米国政府の反応を綿密に観察するだろう。空域方式は元来、ICAO総会後に欧州がその二酸化炭素管理制度を継続するにあたって推進するにふさわしい方法として、米国がICAOに提出したものであり、ロシア、インドそして中国のような発展途上国による、「双方の合意」条項をICAO決議に取り入れるという提案に対してEU代表団の加勢をすることとなった。アメリカ連邦議会を通過することで、EU制度に参加することを米国エアラインに禁じる法の効力がたとえ発生しても、EUは米国によるEU ETSの空域方式の提案について米国が引き続き支持することを期待するだろう

 修正版EU ETS制度の規制対象となることに立ち向かう米国の主要エアラインを代表する、米国エアライン協会(A4A)は当然欧州委員会の計画に反対している。

 「2週間前にICAOで合意が達成されたという状況にもかかわらず、エアラインの登録国の合意無しに、EU ETSのEU域内の飛行への一方的な適用を継続し、EUを離発着する国際便の部分にまで拡張して適用するという提案が行われている。」とA4Aの広報担当であるKatie Connell女史は述べた。「この提案はまだ初期の草案なので、我々は欧州連合理事会と議会に対し、国際合意に沿った法律修正のための審議過程を踏むよう要請する。」

 欧州のエアラインはその一方で、現在EU ETSに起きていることについて異なる見解を持つが、彼等が対峙する欧州委員会の提案に基本的には満足していない。

 主要航路を運用する航空会社の代表である欧州エアライン協会(AEA)は、空域方式に反対ではないが、地域的MBM制度の双方の合意原則がICAOで採用されたことを考慮した上で欧州委員会が提案を行っていることに驚いたと述べた。

 「AEAが懸念しているのは欧州委員会が現在推奨している一連の活動が、我々をここまで連れてきた良識を無意味なものにしかねないということだ。」AEAの広報担当であるViktoria Vajnai女史がGreenAir誌に語った。「欧州委員会の提案が欧州議会と欧州連合理事会との共同決定段階に移行するにあたり、国際社会を含め、利害関係者を広く巻き込んだ検討がなされるものと信じる。そのような制度を採用すれば、再度、第三国の不服従と報復の可能性を誘発しかねないと我々は考える。」

 「EU域内の規制から空域での規制へという、提案された移行は、対象範囲を世界の航空由来のCO2の9%から13%までわずかに増加させ、或いはEUレベルでなら27%から39%まで増加させる程度で、同じ政治的障害物を解き放ったままであり、ICAOを通じて国際的な制度を設立しようというエアライン産業の要望を阻害しかねない。」

 地域航空会社を代表する欧州地域エアライン協会(ERA)の立場は、今や、2020年から実施される予定の国際的MBMについて合意に達するのを見こして、2016年の次回ICAO総会の結果が出るまで、EU ETSを完全に保留するべきであるというものである。

 他方で、欧州低運賃エアライン協会(ELFAA)は、ICAO総会は「実施のための明確な予定表があり、地域的制度から特定地域の制度までの暫定的制度の具体的な方策を伴った、国際的なMBMのための工程表を出せなかったのだから」欧州委員会の提案の内容では十分でないとして批判した。

 ELFAAは声明で述べた。:「法的に証明されたEU ETSの完全施行に戻すとしてICAOに明確な最後通告を出すかわりに、その独自の排出管理制度をさらに劇的に弱体化するような提案を欧州委員会が急ぎ行うのを目にしてELFAAは驚きそして失望している。欧州委員会の提案は適用対象外が増えて環境保護には不十分であり、現在うまくないやり方で適用制限されているEU/EEA内の運航者への、差別的で歪みを生む影響を修正する方策も不十分である。」

 「その上、EU ETSの規制対象範囲を劇的に狭めるのであれば、欧州委員会の提案はまた、排出量の割当に関する基準に従って再調整を行う期日の不履行を棚に上げることになり、これはEU/EEA内の運航者を不利にする。EU ETSの現在の一時的適用制限状態におけるこの異常事態に取り組むどころか、提案された修正案は最も早い場合でも2018年までは状況を正すつもりはないことを明確にしている。」

 ELFAAの事務局長であるJohn Hanlon氏はEUに対し、EU ETSの信頼性と環境的資質の回復を要求し、欧州連合理事会と欧州議会に「この提案によって損をするのは環境であり、欧州航空と欧州の消費者であるし、あまりよく練られていないこの提案を支持しないよう」要請した。

 ブリュッセルに本拠があるNGOのTransport & Environment (T&E)は、排出物規制は欧州の空域内に制限するという欧州委員会の提案は、ICAO加盟国の懸念を認めたものであるが、2016年にMBMを国際的に実施する場合の詳細に関しICAOプロセスで合意が得られなかった場合の代替条項を入れ損なっているとコメントした。T&Eによると、空域で規制するやり方は、長距離便に由来する、EUの規制対象外の航空排出物の巨大な容量を捕らえ損ね、世界規模では公海上の飛行のせいで、航空排出物の78%が規制されないまま残るとのことだ。

 2016年のICAO合意に関して不確定要素が残っているので、T&EはETSの規制対象を2017年から拡大し、あらゆる出発便の最初の50%とあらゆる到着便の終わりの50%が規制対象となるよう大陸間便を50/50の割合で規制するようEUに要請した。

 T&Eの航空管理者であるBill Hemmings氏は、欧州委員会の提案の発表を気候にとっての「灰色の日」と表現した。「外国と業界からの圧力が欧州に、欧州独自の航空排出物規制法を最低限まで縮小するよう強いたのは恥ずべきことだ。」と彼は述べた。「航空排出物が急激に増加する一方、欧州の航空気候対策は自らの翼を折ってしまった。」

 欧州委員会の立場を唯一人で支持して、Aviation Environment FederationのTim Johnson氏が、ICAOの根拠となるシカゴ条約が、ICAO総会の気候変動決議の条項より先に進んで地域的空域内で行動を起こす法的根拠をもたらすのだと述べた。

 「de minimisu条項のようなICAO決議の重要な要素や、ICAO総会に先立ち米国を含む多くの加盟国が示した空域方式への支持を認識しながら、欧州委員会の提案が元来の野心を可能な限り引き出すためのやり方としてこれを使うのは間違っていない。」と彼は述べた。

 「しかし環境的観点からすると、規制対象になる排出物を大幅に減らすことになるので、これはEU域内に由来するGHG排出物と取り組むために可能な全選択肢の再調査が必要になるであろう、2016年の次回ICAO総会後に、EU加盟国が再検討する一時的方策であるべきだ。」

 次週火曜日(2013年10月22日)のブリュッセル会議でこの提案について航空産業は欧州委員会と意見交換する機会が得られる予定である。

リンク:
欧州委員会のEU ETS提案
ICAO第38回総会気候変動決議