原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=1815
2014年1月27日月曜日−4月終わりまでにEU機関の決定が必要なのだが、いまだに航空に関するEU ETSの将来の方向性について、欧州議会とEU加盟国内のみならず、欧州エアラインの間でもかなりの意見の相違が残ったままである。欧州議会の運輸委員会と産業委員会のメンバーである欧州議会議員らは先週、EU/EEA空域内の全フライトからの排出物を規制しようとする欧州委員会の提案の内容を和らげるために投票を行った。この問題を担当する環境委員会は1月30日木曜日に投票を行うことになっており、欧州委員会提案を概ね支持している。3委員会の報告者達はこれから妥協点を探ろうとしているところである。一方で、欧州エアラインを代表する3つの事業者団体もまた将来のEU ETS像について意見が異なる。欧州議会と加盟国の間にはEU ETSの排出枠取り引きの収入をどう使うかについて大きな対立が存在している。
先週木曜日に、環境委員会(ENVI)がこの問題について討論の場を設け、これからの進め方について欧州議会議員の間にたとえ意見の相違はあれど、大多数が欧州委員会の空域提案を支持したいと考えているように見受けられる。しかし、欧州議会における航空に関するEU ETSの報告責任者であるPeter Liese氏は、あらゆる面で譲歩が行われねばならないことと、欧州連合理事会を通じてEU加盟国との三者会談プロセスを開始する前に、3委員会の間で妥協点を見いださねばならないことを了承した。
運輸委員会(TRAN)は『時計を止める』という、EU/EEA内を規制する適用制限の期間延長を希望しているとLiese氏は述べた。「それはとりあえず我々が考慮すべき選択肢だが、その一方で、2016年までこの状態を継続することは我々には受け入れがたい。」
合意が得られる範囲として、EU ETSの排出枠取り引きの収入を気象関連の財源や排出物の少ない研究開発の財源に割り当てるという論点があるとLiese氏は述べた。この論点に関する欧州議会の立場は明快だとしても、加盟国は収入を担保することを拒絶してきたし、これが第三国からの批判を正当化したと彼は述べた。
Liese氏はENVIの会議で述べた。:「我々が発信するメッセージの内容に、我々は細心の注意を払わなければならない。我々は現在、多くの抵抗にあっている。エアバス社は必死にこの空域提案と闘っているところである。中国が契約を破棄すると脅すなら、中国が我々に要望することをすることになりそうだ。」
欧州委員会提案へのLiese氏独自の修正を支持しつつ、欧州議会議員のChris Davies氏は政治的影響をEUは受け入れるべきであると信じており、ICAOからどんな結果が出てくるのか確信がないと述べた。
欧州議会議員でGreens党所属のSatu Hassi女史は、歩み寄りの気持ちが度を超していると述べた。「企業や他の国家が我々の法律に反対する場合には、我々が法律を変更するというメッセージを世界に向けて我々は送るべきではない。」と彼女は述べ、EUは『経済的には巨人でも政治的にはこびとである』と見られる危険がある、と付け加えた。
オランダ人の欧州議会議員であるGerben-Jan Gerbrandy氏は言及した。:「これは気候変動と航空の問題というより、欧州の信用問題である。国際的な解決策を得るための本格的な進展が得られるようにICAOに1年間の猶予を与えるのだと我々は言ったのに、ICAOでは成果が出なかったのだ。やると脅して結局あなたがそれをしないなら、あなたの信頼性はどこにあるのだろうか?」
「エアバス社にとって、これは経済的な脅迫で、脅迫のままでは済まないだろう。我々は欧州委員会を支持すべきで、欧州議会は断固として立ち向かわねばならず、決して経済的な脅迫に我々は屈してはならない。」
欧州委員会提案に反対の立場で発言したのは英国保守党所属の欧州議会議員であるMartin Callanan氏とJacqueline Foster女史だった。
「エアバス社は欧州で数万人の社員を雇用している。比較的小さい原則とそれに関わる小額の金額のために、エアバス社社員数万人に問題を引き起こす理由は何なのだろうか。」とCallanan氏は述べた。「我々は我々の原則に則ることはできるが、実際の影響に気づく必要がある。」
Foster女史は欧州委員会の気候活動総局(DG CLIMA)が航空に関わるEU ETSを独断的に扱うことについて批判し、第三国との合意無く一方的なやり方で進めた結果について懸念を示した。「この問題で数十億ドルのエアバス社の注文が棚上げ状態になってしまった。率直に言ってこれは受け入れがたい。」と彼女は述べた。ICAO総会の結果を考慮して、EU ETS指令の適用を「無期限に保留するよう」彼女は要求した。規制対象をEEA内のフライトに制限することについても、欧州エアラインの公平な立場を失わせることにつながるので、抵抗すべきであると彼女は言い、この状態は欧州委員会がそもそも非合法と見なしてきたと彼女は信じているとのことだった。DG CLIMAの代理としてENVI委員会に対して行った声明で、Elina Bardram女史は、航空に関わるEU ETSは政治と原則を巻き込んだ複雑で能力が試される一件書類で、政治と原則が巻き込まれることは非常にまれであると述べた。
大きな成果であると彼女が見なしている、10月に採択されたICAO総会決議に言及して、Bardram女史は言った。:「2020年以前に暫定的対策を採用する国家に関するパラグラフは、双方の合意を暗示すると理解する国家が数カ国ある。EUはその解釈にはきっぱりと異議を唱えて留保に入った。我々はもちろん、合意を得るための努力は継続するが、第三国の視点から望ましいという基準に則って我々の法を決めることはないだろう。」
「我々の提案はICAO総会で決定されたことに沿った、心からの努力であり最良の企てである。後発開発途上国に適応する特定の条項を我々は作成した。我々はまた、主要な航空国家を含めた我々の協力国の多くが、実際に空域方式を提案した、ICAO総会に先立つ討論や会期中の討論を反映した。そうする内に、国際的な[市場に基づく対策]の成果を見越して、我々はかなり我々のETS法を縮小させた。環境への熱意の縮小は容認できると我々は感じた。というのも、その方策は将来実現し、我々がそれを成功のための最良の機会にしたいと信じているからである。」
欧州委員会提案の下で、2014年までEU/EEA内へと適用を制限する扱いを延長することは、空域方式実施の前に技術的調整を行うために十分な時間を得ることになるとBardram女史は述べた。
これまで提出された異なる提案の数は政治的選択と交渉まで煮詰まったと、彼女は言った。「選択肢評価のための重要な基準は管理の容易さ、安定性、耐久性及び、それらが良い規制の構成要素となるかどうかである。欧州委員会の提案はこの基準に合っているように我々には思える。政治的承認の問題があり、それは、我々がどこまで進んで適応したいと望むかにかかっている。」
「欧州委員会の提案が行われてから、特に産業界の協力者達の中には懸念を表した者がいることは周知のことだが、どのような選択肢なら彼等が完全に同意するのか現在では明らかでない。我々の提案は法的にも技術的にも適切であり、公平な立場を保証する。同じ航空路の運航者はすべて公平に扱われる。」
世界規模で運航する国際的エアラインを代表するIATAが、国際方式を導入しないまま、EU ETSを完全に保留することを望む一方で、欧州エアラインの業界団体は異なる意見を表明している。
EEA外のルートも運用する主要エアライン30社の加入する欧州エアライン協会(AEA)は、欧州委員会提案の規模を縮小しようとする先週の運輸委員会(TRAN)の投票を歓迎し、産業委員会(ITRE)−こちらはその後TRANと同意見の投票を行った。−とENVIにおいて先例に倣うよう、欧州議会議員に要請した。
AEA曰く、TRANの決定は、第三国からの報復手段に欧州エアラインがさらされかねないという理解をはっきり示した。「AEAはTRANが航空関連ETSの規制対象を欧州経済地域内のフライトに制限することを歓迎する。」とAEAは声明で述べた。「この動きが国際論争の危険性を減らし、国際航空による排出物のような世界規模の問題は世界規模の解決策が必要であることを追認する。」
AEAのCEOであるAthar Husain Khan氏は付け加えた。:「航空関連ETSは国際航空の排出物低減に関する国際合意を得るためのICAOでの進展を妨害してはならない。」
2017年から2020年までの状況に関して不確定要素があり、エアラインには長期にわたる計画の安定性が必要なのだとAEAは言い、明確さを要請した。
他方、欧州地域エアライン協会(ERA)、これは欧州内の地域航空会社の代表であるが、その事務局長であるSimon McNamara氏は、国際便の排出物を捕捉しようとすることは、たとえEU空域においてさえ、非EU国家とのかつての論争を再燃させることだろうと反対した。「しかし、同様に、EU内部のみ規制対象とする制度は欧州と欧州内エアラインにとって厄介な問題になるだろう。」と彼は述べた。
「賢明な選択肢は、EU ETSの適用を全フライトに関して保留し、ICAOで2016年までに国際制度を作り出すことに集中することである。しかし、環境問題に関する欧州の理想主義がそうなることを阻止してきた。我々は2つの選択肢から1つを選ばなければならないように見えるが、どちらの選択肢も理想的なものではない。」
旅客数では欧州で上位2位に入るRyanairやeasyJetのような低運賃航空会社を代表して、欧州低運賃エアライン協会(ELFAA)が2012年の遅い時期に『時計を止める』決定がされてから、航空関連のEU ETS指令を完全に復活させるよう陳情を行ってきた。
完全施行を復活し損ねたので、EUは少なくとも欧州空域における排出物を対象とするETSの実施をすべきだと、ELFAAの事務局長のJohn Hanlon氏はPeter Liese氏、Gerben-Jan Gerbrandy氏やブリュッセルを本拠地とするNGOのTransport & Environmentと共に木曜日の記者会見で要求した。
「ETSの基礎としての1年限定の『時計を止める』措置を延長することは差別を生むのみならず、長距離便を規制対象にしないまま、EUの航空排出物であるCO2の20%のみ規制対象とするようなもので、環境対策としても効果がない」と、彼は述べた。
完全実施から暫定的に対象範囲を狭める場合、Hanlon氏によれば長距離便を優遇することになり、この制度の環境効率の基準の再評価をするようにと彼は要求した。「根本的に異なる範囲について設計された元来の基準を再検討しないと、欧州内の運航者についてさらに差別を助長させることになる。
Hanlon氏は、ELFAAはEU ETSを初めから支持してきたこと、ELFAAの加盟エアラインは成長し続けることを望んでいるが、成長は環境上持続可能なことを示したくもあるので、新技術が排出物の増大を相殺できるまでは、市場に基づくメカニズムがそれ故必要となることについて述べた。
「我々の分野は非常に成長が著しく、割当量が最も不足しているが、それに対処する気力はある。しかし、ETS制度は環境対策として公平で差別を生まず、効果がなければならない。そこで、EUは完全実施にこだわるべきだったと我々は考える。少なくとも今EUがすべきことは、欧州委員会提案にこだわることだ。」
彼は欧州議会に対し、政治的圧力に負けないよう呼びかけた。「EU空域での規制をあきらめて欧州内規制に後退したら、次に対面する論点はICAO総会決議が双方の合意を必要とする、という点であり、EU ETS実施に反対する国家が引き続きEU内での規制対象にされることを喜んで受け入れるなどと考えないように。あなた方が目にするのはかつてないほどに縮小した制度であり、あなた方はEUの規制する権利とEUの品位を大きく揺るがす難問に直面することになるだろう。」
欧州議会議員の間の歩み寄りの雰囲気を歓迎しつつ、DG CLIMAのBardram女史はENVIの会議の席上で、(加盟国を代表する)欧州連合理事会との共同決定プロセスを終えるための合意の期限が4月の終わりと、切迫したスケジュールであることに言及した。
しかし、Liese氏とGerbrandy氏は記者会見で、ENVIは欧州委員会の提案に基づき、1年を超える延長に賛成票を入れることはありそうもないのに対し、TRANの報告者が委任されているのは「時計を止める」適用制限の2016年までの延長のみを基盤とする交渉であり、TRANとの合意に達するのは困難であるかもしれないと警告した。欧州議会と欧州連合理事会が4月終わりまでに合意に達することができなければ、自動的にEU ETS指令の完全実施に立ち戻ることになると、Liese氏はくぎを刺した。
EU機関の間の三者会談は2月中に行われる予定で、その後、3月に(加盟国の)環境・運輸理事会の会議が行われ、4月14-17日の全体会議で欧州議会の投票が行われる予定である。
リンク:
ENVI委員会会議のビデオ
TRAN委員会会議のビデオ(航空関連のEU ETSは16:01:24に開始)
Liese氏/Gerbrandy氏/Hanlon氏/T&Eの記者会見ビデオ
海外情報紹介 欧州の政治家、加盟国及びエアラインが描く今後の方向性が異なるので、航空関連のEU ETSが宙に浮く。
- 2014年2月13日(木) 18:00 JST