海外情報紹介 気候変動の影響で観光産業と航空輸送分野の危険が強まるとケンブリッジ大が報告

原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=1945

2014年7月11日金曜日−観光産業は気候変動により深刻な影響をうける見込みであり、気候変動はまた航空輸送分野に重要な影響を及ぼすことが予想され、顕著なカーボンフットプリントを減らすよう観光産業と航空輸送分野にプレッシャーが強まる。この警告はケンブリッジ大学の持続可能性リーダーシップ研究所(CISL)が出した新しい報告書で強調されているが、この報告書は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の研究成果の要約である。人間が関与する温室効果ガス排出物のうち観光産業が係わる割合は3.9から6パーセントだが、この割合は現在のままでは2025年までに10パーセントまで増えるだろう。2005年の観光産業全体の排出物のうち43パーセントが航空輸送に由来するものだったが、航空旅行の数が旅行全体の回数に占める割合は17パーセントだった。最近別のケンブリッジ大調査によると、炭素税を使って旧型機を新型機に更新することで地球規模の航空排出物の1/3を2050年までに削減できる見込みとしている。
ケンブリッジ大学の経営大学院であるケンブリッジ・ジャッジ・ビジネススクールと欧州気候基金の協力を得て行われたCISL報告は、IPCCの第5評価報告書(AR5)から特定の経済及びビジネス分野について最も関連性の高い見解部分を抜き出したものである。「この報告は観光産業に関するIPCCの研究成果の極めて重要で有益な要約である。」とビジネス・イン・ザ・コミュニティの1部門である国際観光産業パートナーシップの統括であるStephen Farrant氏がコメントした。「観光産業のすべての部門でこの警告に注意を払い、気候変動に適応するために今以上に何が出来るかを考える必要があり、観光産業の環境に及ぼす悪影響を減らすことをいかに継続するかを考える必要がある。」

気温が上昇し冬が短くなることで営業が脅かされるスキー場が出るであろうし、海面が上昇しサンゴ礁が消滅して世界の観光産業で最も大きい部分を占める海岸観光が脅威にさらされるなど、気候変動が観光産業と旅行パターンに変化をもたらすだろうと報告書は述べている。例えば、海面が1メートル上昇することでカリブ海のリゾート施設の最大60%が損害を受け、21空港が破壊されるか或いは損壊し、35の港周辺の土地が浸水するであろう。世界のサンゴ礁は、年間の国際観光収入で115億ドルの寄与がある。

もうひとつのマイナス影響はエコツーリズムにおける生物学的多様性の変化であり、例えば、2080年までにサハラ以南のアフリカでは国立公園における40%の種が絶滅の危機に瀕するであろう。

これらの直接的影響に加えて、気候変動の結果、貧しい国家において浄水がさらに不足し病気が広く蔓延し、治安が悪化し社会がより不安定になって、観光産業は間接的な影響を受けるであろう。一方、気候の変化が、氷河の溶解を目にする「ラストチャンス」のような新しい観光の機会に結びつく可能性はあるが、これらは当然長続きはしない。

観光産業は、世界中で2億5,500万人を超える人々の生活を支え、世界のGDPの9%程度を占め、毎年6兆ドルを超える収入を稼ぐ、世界でも最大の産業の一つである。観光産業分野は世界の最貧国のいくつか、特に小さな島国にとってはとりわけ重要な産業である。

世界のGDPに占める割合に比べれば世界の排出物に占める割合は低いが、観光産業は部分的にエネルギーを大量消費する産業であり、顧客はしばしば船や航空機で長距離を移動する。これまで通りのシナリオではこの分野の排出物は2005年と2035年の間に130%に増えることが予測され、航空旅行と宿泊施設による排出物は3倍になるという予測である。観光産業が気候変動に及ぼす影響のうち建造環境によるものが約20%を占め、輸送によるものが75%を占める。航空旅行は観光産業部門の総排出量の43%の排出源であり、海洋クルーズもまた高い排出量を伴うので、観光産業による排出物を削減するには輸送分野の効率改善が大きく関わることになるであろう。

ここで、新型航空機は現在の型式よりも概して20-30%の燃料効率改善が見られることから、事態は進展していることをその報告書は見い出している。報告書は、2030年から2050年までの間に、2005年のレベルと比較してさらに40-50%の効率改善が得られ、代替燃料の採用によって温室効果ガスが30-90%削減できると述べている。

しかし、燃料効率の改善と技術的解決による排出量削減は、観光産業の繁栄によりおそらくは相殺されるとみている。

もし各国政府が2℃目標に合わせた気候変動抑制政策を立てた場合には、旅行と観光産業による排出物を軽減せよという圧力がいっそう強くなるだろうとその報告書は述べている。大きな価格要因が必要であるような場合で特に旅客輸送の挙動を変更するためには、強い政策的判断が必要であると、報告は示唆している。

気候政策機関であるClimate Strategies のために昨年、ケンブリッジ大の研究者が行った調査の結論は、もし賢明なやり方で実施されれば、世界の最貧国家へ顕著な経済的影響を及ぼすことなしに、炭素税やカーボンオフセットや他の市場に基づく対策(MBMs)が航空産業と海運産業によるCO2排出物の影響に効果的に対処できるということだった。

世界規模でMBMsを実施した場合、海運や航空による観光産業や貿易に依存しているか、または遠隔地であると言うことから、より顕著な影響を受けると予想されるという理由で選ばれた発展途上世界の10カ国について、この調査はMBMsの経済的影響を定量的に示した。研究者らが見い出したことは、これらの国家の多くについて経済的影響がとりざたされるが、例えば一定の航路の適用免除、一括割り戻し、インフラの効率化や効率のよい船や航空機の開発への投資を通じて経済的影響は最小にできる可能性があるということである。MBMsの実施には数多くの課題が伴う一方で、MBMsは特に発展途上国にとっては気候変動緩和のための事業と計画を支援するための重要な資金源になり得ると言われている。

「一方では、観光産業に大きく依存している貧しく小さな島国は例外扱いにできるだろう。しかし、他方では、太平洋の真ん中にある小さな島国であれば、長距離便にすでに$1,500払っている観光客にとって$50の炭素税の加算はたいした問題ではないし、$50は気候変動解決進展のための費用に充てることができるだろう。」とケンブリッジ大の気候変動軽減調査センターのメンバー時にこの調査のリーダーであり、現在はイーストアングリア大学に在籍するAnnela Anger-Kraavi博士は述べた。

さらに、Transport Policy誌で公表されたケンブリッジ大学の別の調査が、「廃棄」のスキームを通じて旧型機を更新するため、助成として世界の炭素税収入を使用する政策が及ぼす影響の大きさを評価した。この調査は、そのような政策が、2050年までにこれまで通りのシナリオと比べて最大1/3まで航空機排出物を減らす可能性があることを見い出している。別の研究は、現在の航空機がすべて最新型機に置き換わったら、世界の航空排出物の約10%ほどは速やかに削減可能なことを見い出している。

「どちらのシナリオも実際上は現実的でない。これは明らかに政策提言ではないのだ。」とケンブリッジ大の航空環境研究所で調査を率いたLynette Dray博士は言った。「しかし過去30年から40年にわたって年間約2.5%で増え続けてきた航空排出物は古い技術がもたらしたことだということを実証するためには有益なシミュレーションである。」

「航空排出物の抑制が難しい理由の一部は、航空機の寿命が長いことにある。航空機は30年かそれ以上持つように設計されているので、新しく、よりクリーンな技術が浸透するには比較的時間がかかる。」

Dray博士と彼女のチームは今、現存の航空機の排出物を減らすためにいくつかの低コストの改修策を作ることの影響をテーマに調査している。それらには、軽量の客室や椅子の設置という改修や空力性能改善のためのウィングレットの設置という改修がある。

昨日発表された最新の市場展望では、Boeing社はこれから20年間で5兆2千億ドルに相当する36,770機の新型機の需要があることと、その1/3を超える部分はアジア太平洋地域からの発注を見込んでいる。
リンク
ケンブリッジ大CISL − IPCC AR5気候変動の観光産業とのかかわり
ケンブリッジ大/国際航空と国際海運部門における排出物に対処するための対策が発展途上国に及ぼす影響を評価するための気候戦略調査
ケンブリッジ大調査「炭素税を財源とするエアライン所有機の更新:総合アセスメント」