海外情報紹介 飛行路のわずかな変更で航空の気候への影響を減らせる大きな可能性があると研究調査により判明

原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=1991

2014年10月8日水曜日−北大西洋航空交通において、指定飛行経路と高度のわずかな変更だけで気候への影響を最大25%減らすことができ、それに伴う経済費用増加はわずか0.5%未満ですむということが、欧州の主要研究プロジェクト参加者による研究調査でわかった。環境、気象そして航空宇宙関連の研究機関から科学者が参加し、冬のある特定の1日に大西洋を横断する航空交通を調査し、強力なモデリングツールを使用して航空交通に由来するCO2排出物とCO2以外による気候影響物質の低減達成に必要な指定飛行経路の変更を分析した。調査はEUからの資金提供を得て、4月に終了したREACT4Cプロジェクトの一環として行われた。プロジェクトリーダーであるドイツ航空宇宙センター(DLR)は最近シュトゥットガルト空港会社から、環境に優しい航空旅行に向けた航空賞を授与された。 今回の調査では欧州と北米間の東行きと西行きの約800便を1セットとして、強いジェット流があった場合の1日について、これらのフライトからの気候影響低減達成に必要な指定経路の変更を分析した。CO2排出物と同様に、分析にはNOx排出物や水蒸気や飛行機雲の形成によって起こるオゾンやメタンの化学変化などのCO2以外の影響も含めた。気候変化につながる大気プロセスは大気中のバックグラウンド条件と輸送経路によって異なるので、CO2排出物以外の気候影響は航空機の時間と位置に依存する。

摂動の大気寿命が長いCO2を除いて、範囲が限定される航空交通排出物の影響は大きな空間的および時間的変動性をもつ。一部の地域では排出されたNOxが急速に「取り除かれる」一方で、他の地域では数週間も大気中にとどまっている。持続時間の長い飛行機雲は氷が過飽和の領域で発生し、これも大きな空間的および時間的変動性をもつ。そのような気候影響に敏感な地域を避けるため、今回調査では横方向及び縦方向のルート変更のオプションについて、最新の気候化学モデルとユーロコントロールの航空交通シミュレーションツールを用いて調べた。

気候への影響を最小限にするための航空交通のルート変更調査がこれまでにも行われていたが、今回調査で扱ったような広範囲の大気影響や複雑な交通を取り扱った調査は無かったと、the journal Atmospheric Environmentの9月号に掲載された論文では述べている。

地域を限定した排出物の気候影響を定義するため、排出物の位置(3D)、時間(1D)、そして排出物の種類(1D)から成る、五次元の気候費用関数計算のために、1日評価方法が用いられた。気候費用関数は、ある時間にある地域を飛ぶ際に1kgのCO2、NOxまたは水蒸気が気候に及ぼす影響、あるいは1kmの飛行機雲が気候へ及ぼす影響の定量を可能にする。これらの地域の大きさは計算に使用した気候モデルにセットするが、世界を最大100×100kmの領域にまで分けて(グリッドボックスと呼ばれる)計算することができる。

これらの計算が飛行ルートと高度を変えることで、より環境に優しい大西洋横断便の設計を可能にし、それに伴う費用の上昇についても算出できる。「ある特定の気象条件に応用した場合、この方法では気候への影響を25%減らす可能性があるが、その一方で西行きのフライトについては0.5%しかコストが上がらない。」と今回調査の筆頭著者であり、DLRの大気物理研究所のVolker Grewe博士が説明した。

プロジェクトチーム参加者のリーディング大学気象学部のEmma Irvine博士は付け加えた。「我々の研究調査では対象地域が北大西洋地域に限定されることに注意することが重要である。私はこれらの結果が他の地域に直接当てはまるとは必ずしも期待しえない。というのも、CO2以外の排出物の気候影響は、地域、高度や気象条件に依存する部分が大きいからである。」

北大西洋の代表的な天気状況の範囲を取り扱うための論文が執筆されて以来、研究調査は拡大してきた。「総合的に航空交通管理によって気候への影響を実質的に減らすことは可能であることが我々には分かった。気候への影響を減らす可能性は気象条件に大きく依存するが、どの程度までのコスト上昇が許されるのかということについても分かる。というのもこの方法はあるフライトでは飛行ルートが長くなるとか、最適でない飛行高度を飛行するとかいうことを要求するからである。」とIrvine博士は述べた。

「気候への影響を減らすためには、どちらの方向に飛んでいくのかに依存することに注意するというのも興味深い。向かい風で飛行する西行きのフライトではコスト上昇が小さく、気候への影響は大きく減らせる可能性があるとわかった。これはジェット気流の中では有利な追い風に向いていない東行きフライトのルート変更が燃料消費の面で大きな不利を被るからである。」

研究者は、ある冬の1日について、西行きの交通では最大60%、東行きでは最大35%の気候影響が低減され、それに伴う燃料燃焼と乗員の勤務時間の増大による経済費用上昇は10-15%で済ませることが可能であることを明らかにした。飛行機雲によって気候温暖化を減らせることが、このときの変化を生む要因であると論文は言及している。

「最小限の費用で飛ぶ飛行経路と比べて、いくつかのフライトは飛行経路と高度のわずかな変更で、その日の大西洋横断航空交通の総合的気候影響を25%減らすことができるであろう。」とIrvine博士は述べた。「この変更はこの日の全体運営経費を上昇させても、0.5%以下である。」

REACT4Cプロジェクトは終了しても、最終報告のためには結果はまだ分析中であると彼女は述べた。助成があれば、気候に最適なフライトに関してさらなる調査の必要があると彼女は付け加えた。

REACT4C(気候に良い効果をもたらすために飛行路を変更して航空排出物を低減する)プロジェクトには欧州6カ国の8つの機関が参加した。DLRとリーディング大学の他、共同研究機関としてユーロコントロール、エアバス社、英国気象庁、オスロの国際気候環境研究センター(CICERO)とマンチェスターメトロポリタン大学が参加した。

賞金が75,000ユーロ(95,000ドル)であり、シュトゥットガルト空港会社(FSG)が設立した「環境に優しい航空旅行のための」航空賞が最近の授賞式でこの研究調査についてドイツの運輸・インフラ大臣であるWinfried Hermann氏からGrewe博士とDLRに授与された。

世界的な募集をした後、科学、産業、政治部門の11名の審査員が欧州、北米、アジアの31の候補から受賞者を3位まで選出した。衛星航法によって空港騒音を低減するDLRの別のプロジェクトが2位になり、3位は一般航空部門でシュトゥットガルト大学の航空機設計研究所による6人乗りの電動飛行機の設計が受賞した。

「航空産業は絶えず環境影響を減らすよう努力している。地上におけるインフラ提供企業として、シュトゥットガルト空港はこれらの目標に貢献する責任を認識している。」とFSGの最高経営責任者であるGeorg Fundel教授は語った。「航空賞は、より効率良くサステナブルな航空旅行の将来を形作るための新しい一歩である。」

FSGのもう一人の最高経営責任者であるWalter Shoefer氏は付け加えた。「航空賞は我々の『環境を汚さないシュトゥットガルト空港』コンセプトの1つの構成要素である。我々は欧州で最高能力をもつ最もサステナブルな空港の1つになることを目指している。そのため、航空旅行をもっとサステナブルで経済的効率の良いものにできる新しい技術やコンセプトのためのアイデア普及に努めている。」

リンク:
REACT4C事例研究:「航空交通の気候変動への関与を減らす」(オープンアクセス)
REACT4Cプロジェクト
DLRの大気物理研究所
Reading大学の気象学部
シュトゥットガルト空港の航空賞2014