海外情報紹介 分析:国際航空が提案した世界規模の炭素排出規制案の複雑な基本ルールを紐解く

原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=2249

 2016年6月1日水曜日− 国際航空の増加が早い炭素排出物に対応するため、市場に基づく国際対策(GMBM)の試案を検討しようと最近行われたICAO加盟国の高官レベル協議(HLM)は、根深い意見対立である意味で損なわれたという見方があった。しかし、交渉に係わりの深いメンバーらにとっては合意が得られるという確信が以前より強くなっている。一般的な合意が得られる部分の話合いの間にかなりの進展があったことを報告しつつ、9月下旬に開催される第39回ICAO総会で加盟国191カ国による検討を行う前に、この制度の主要要素については「まだすべき作業が残っている」ことをICAO理事会議長のオルムイワ・ベナード・アリウ博士は認めた。今回の記事はICAOでの会議結果を反映し、初めて世界規模の排出炭素規制制度の基本原則を提示することを目指す総会決議案を紐解くために企画した。

 初めにいくつかの背景について。2013年の前回ICAO総会で決議(A38-18)が採択された後、加盟国の支援を得てICAO運営理事会がGMBM規制案作成の責務を負い、制度実施に関する決定は次回総会で行われることになる。そのため、理事会メンバー17カ国と航空産業の代表らで構成される環境顧問団(EAG)が、制度開発を監督するためにICAOの環境保護委員会(CAEP)の技術支援を得て設置された。カーボンオフセットに基づく規制について、基本となる「たたき台」提案は、EAGでこの制度の作成要素の長所・短所に関する議論と分析を行う目的でICAO事務局によって書かれた。

 EAGは2014年3月から2016年1月の間に15回の会合を持ったが、最後の回ではこの規制に係わるそれまでのEAGの討議の進展と出された意見に基づく総会決議文を検討した。さらに意見集約して案文を理事会の検討用とするため、国際的MBM制度に関する18カ国からなる高官レベルグループ(HLG)の設立をEAG/15会議は推奨した。加盟国や他の利害関係者との間で行った一連の国際航空対話(GLADs)や加盟国の小集団との非公式な協議の結果を考慮して、HLGの2回の会議では、65加盟国が参加した高官レベル協議で示された最終案文書の多くの条項を明確にして修正案に至った。

 HLGの検討中に生じた意見や考え方の相違は航空産業や市民代表からの情報も加えて、HLMで提示された文書やHLMのウェブサイトへの掲示によって、主要な航空国家および地域が公表した。HLMの目的は、この規制案の内容の詳細をまとめ上げるために総会決議案の序文と20のそれぞれの段落を精査し、現在進行中のICAO理事会のセッションで、ICAO総会前の最後の会議に提案を行うことである。現在検討中の文案は4月20日付けで理事会に示された修正版で、前回総会以降のGMBM制度作成については事務局が提示した文書での付属書に含まれている。

実質的意見の相違
 ロシア連邦と中国がHLMで示した文書はGMBMの提案とは本質的に意見が相違することを指摘しているが、これまでの発言と同様である。

 ロシアの文書はカーボンオフセットの概念に疑問を投げかけ、GMBM制度の目指す目標すなわち、2020年以降のカーボン・ニュートラルな成長は現在提案されている内容で実際に達成可能かどうかを疑問視していた。GLADsも含めたEAGとHLGの会議は、カーボンオフセット規制案がどのように機能するかに関しての意見の相違を調整できなかったと文書は主張していた。この規制を現在の草案内容で実施すれば市場に歪みが生まれ、発展途上国においては多くのエアラインの倒産を招きかねない航空部門への過度の費用負担が発生するとロシアは予測した。提案された規制案は、パリ協定の精神や国連のサステナブルな17の開発目標のうちの13の目標とも相容れないもので、国連の気候変動の基本的な考え方と共通だが異なった考え方(CBDR)への考慮も十分できていないことを付け加えた。

 国際的なオフセット規制の代替案としてロシアが提案したのは「航空のためのクリーン開発メカニズム(ACDM)」で、その中では加盟国が国際便の燃料使用量に基づいて自主的に「ICAO環境保全予算」に貢献する。ロシアの主張によれば、これは管理が容易で費用対効果があり、ジェット燃料1トンあたりに1米ドルの料金を科すとすると、発展途上国のプロジェクトで年間約3億ドルの収入を得られる可能性があると主張していた。ACDMはまた、運用機材の燃料効率改善にすでに投資してきた対応の早いエアラインの努力を認識することになる。文書はまた、現在のオフセット制度提案は、『税負担』の軽減が始まる2020年という基準年より前には、エアラインに排出物増大を助長しようとすることになりかねないと指摘した。

 「GMBMを二段階で実施するという提案は、架空のレベルで考えても、2020年以降のカーボン・ニュートラル(CNG2020)という世界的目標達成の可能性の余地を与えないということに注目することが重要である。」と文書は主張した。

 ロシアは文書の中で、インドと中国の支援を得てこのACDM提案を2014年5月のEAG第11回会議で提案したことに言及している。しかし、この提案はHLMに参加した他の加盟国の賛同を得られなかったばかりか、中国が独自文書を出し、その中で中国は国際的なカーボンオフセット制度の設立を受け入れる代わりに、総会決議案に対して広範囲に及ぶ多くの変更を提案し、それによりパリ協定の条項とCBDRの原則をよりよく反映することになると主張した。

 積極的なCNG2020目標に関して加盟国間に意見の相違があることをこの文書は言及し、試案は「国際航空市場はいまだ十分な成長を続けているなかで、発展途上国には不適切な経済的負担を負わせるかもしれない。」と指摘していた。排出物削減に取り組むためのICAOの「一つにまとめた規制」の補完的要素というよりむしろGMBMが主要な規制であろうから、CNG2020は目標にすべきでないと、中国はHLMの期間中に主張した。

 2020年以降は「サステナブルな航空の成長のため発展途上国がそれぞれ異なる努力を強化する一方、より積極的かつ明確な数値で表した航空排出物削減目標を宣言して実施することで」先進国は主導的役割を果たすべきであると中国は強調した。発展途上国の成長の余地を残すため国際航空の排出物を激減することには、先進国がこれまで進める気はなかったことが「懸念材料である」と文書は指摘した。しかし、航空部門を独自の欧州連合域内排出量取引制度に含めることで先導しようとする欧州による試みは、直接的に述べられてはいないが、一方的で国際的コンセンサスが得られていないことから、「航空排出物を抑制し削減するための国際的な共同作業を妨害している。」と批判された。

 HLMの期間中に中国の意見と本質的相違が明らかになったのは欧州ではなく米国であり、中国はその文書に沿った原則を一層強化するため、会議期間中に同盟国であるアルゼンチン、ブラジル、インド、ロシア、サウジアラビアとの共同文書を発行するという手段をとった。

 HLMが進む間に、加盟国によって提案された変更と修正を反映させた総会決議文の2つの修正案(それぞれFlimsy 1とFlimsy 2と呼ばれた)が公表され、ある程度意見集約され、さらなる討議のたたき台として使用された。Flimsy 2はHLMの最終日の朝に提示され、公表された案の最終版となった。討議に係わった加盟国が原案に対して相当数の修正を提出したことを文章中の赤インクの量が物語っている。

 それでは、HLMの終了時の案文を綿密に検討してみるとしよう。

序文:
 基盤から作られ、決議が理由付けされた総会決議案の序文の表現では、新たなパリ協定を認め、2020年に効力を失った京都議定書を考えからはずす修正が行われた。また、国際航空排出物を取り扱うのにふさわしい討論の場はICAOであることを強調し、GMBM制度の下で国連が承認したオフセットを購入すること自体が他部門のための気候対策財源となることをある出席者が指摘したが、国際航空が気候変動対策のための財源として扱われる可能性についてはICAO加盟国が感じている懸念を再認識した。

 パリ協定の採択を歓迎し、(ICAOが採用する)制度の実施によってこの協定の長期の気温目標の達成を支援すべきであると、序文には書かれている。この表現をいれることに反対した加盟国もあったが、サステナブルな航空のための国際連合(ICSA)の代表としてICAOの会議に出席する市民(の代表)と環境NGOsには称賛されるだろう。CNG2020を確かなものにするGMBM決議は、パリ協定の温度目標と一致した一層積極的なロードマップを持つことが非常に重要であると、HLMに提出した文書の中でICSAは述べている。世界の温度上昇を産業革命以前と比べて1.5℃以内に抑えるという積極的なパリ協定の目標に従うように、航空関連産業や諸国家に対して促すためのフライトパス1.5というキャンペーンを最近ICSAのメンバーが始めた。この目標に進むには世界の排出物が最大になった後に速やかに減少させる必要があり、CNG2020が必要な第一歩ではあるが、不十分な寄与であったとICSA文書は述べている。2022年以降は3年ごとにICAOの目標に向かった進展を評価するための制度の見直しを行うことを、決議案の後方の段落(16)で述べ、「パリ協定の温度目標を支えるための改善の検討が必要である。」ことをつけ加えた。

段落1-6:
 段落1から3では、GMBMが国際航空排出物に取り組むために考案された一つにまとまった規制案の中の1要素であることを強調しており、他の方策例えば航空機技術や運航改善、加えてサステナブルな代替燃料の開発と使用の重要性を見過ごすべきではないと表現されている。この3段落は検討中の原案から大きくは変更されていないが、GMBMの役割が「排出目標との差を埋めるもの」だったのが「一時的な手段」に変更され、「一時的」が実際にはどの程度の期間を指すのかについては解釈が定まっていないままである。

 段落4はGMBM制度に名称をつけるということが検討の大きな課題になった。初期の提案で使用された名称は「国際航空の世界規模でのオフセット(International Aviation Global Offsetting, IAGOF)」だったが、次に「国際航空のためのカーボン・オフセット制度(COSIA)」に変わり、最新のFlimsy 2案でもその名称が残されている。GMBMは単に排出物の増大を止めるために作られ、排出物削減を目的として作られたのものではないにもかかわらず、数カ国から名称の中に「削減」という言葉を使うよう要求されたが、それにより一連の規制の他要素を認識し、またオフセットによって他部門であっても結果的に排出物削減になると述べている。(国際民間航空のためのカーボン・オフセットと削減規制案−CORSICAか?)。

 2日目に示された最初の修正案(Flimsy 1)では、新しい補助的段落(4bis)が入ったが、そこではICAO GMBM制度は国際便による排出物のための「唯一の」MBMとなるという記述が、Flimsy 2では「影響を受ける加盟国間に他の合意がない場合は」が付け加えられた。この予想外に含まれた文章は明らかに2020年以降、国際便にEUETSが適用できることを目的としたもので、欧州諸国家にとって一線を越えているという脅しであった。欧州委員会の担当者はHLMの席上でGreenAir誌に対し、この文章の意図が国際航空による排出物の規制の重複回避のための確認なら何ら異存はないが、各国家あるいは地域が市場に基づく独自の方策を採用するのを妨害するために考えられたものならば、これは主権に係わる問題だと語った。「唯一の」を「単一の」とか「適切な」で置き換えるべきかまたはこの両方と置き換えるべきかで加盟国間で議論があった。「・・・合意がない場合は」を支持するものはほとんどおらず、4bis(この段落)は全部撤回される可能性がある。

この制度で航空機運航業者にサステナブルな代替燃料の使用を奨励してインセンティブをもたせるため、そのような燃料を運航者が使用するとオフセット要件の義務づけが軽減されるような方策を作ることを呼びかける内容が段落5に加えられた。国連のCBDR(共通だが差異ある責任)気候変動原則のICAOによる簡易版では、特殊事情や個別の能力(SC&RC)に応じて一定の国家、特に発展途上国については扱いを別にすべきであると認める段落6に関して変更の提案はなかった。

段落7-9:
 段落7と9は全体制度の基礎のところで、そのあたりのことでは加盟国間での多くの対立があり、3日間のHLMの討議の中のかなりの部分を占めた。

 GMBM制度でどの国々を対象にするかと、いつからそれらの国を対象に加えるかを定めるのが段落7の目的である。SC&RCに配慮して、決議案では段階的に実施するやり方を提案し、加盟国は2021年の制度開始時から加入するか2026年の第二段階から加入し、制度が恒久的に対象外とするのが最貧国や小さな島の発展途上国あるいは内陸の発展途上国に分類される国々である。

 どの国家がいつ加入するかを見積もるために、HLMが検討している提案には2つのやり方があり、1つは世界の有償トンキロ(RTKs)にその国が占める割合に基づくもので、もう1つは世界銀行が計算したその国の国民一人当たりの国民総所得(GNI)に基づくものである。国はRTKかGNIのどちらかの基準を満たすのかを基にして、適切な段階で加入することになる。

 GNIについては、2018年に「高所得」と見なされた国は第1段階から制度に加入し、「中の上にあたる所得」と見なされた国は第2段階から加入する。最も異論の多い段落となったが 全員の合意が得られた数少ないものの1つの段落のなかで、恐らく特に驚くことではないが、ほとんどの加盟国がRTKsの代替としての測定基準GNIは撤回するように提案した。RTKsを唯一の基準とすべきと考える加盟国がある一方で、経済的基準を残すように望む加盟国があり、先進国/発展途上国を分けるとか、あるいはICAO独自の評価基準で加盟国のICAO運営のための財政的寄与を評価することに使用される国の経済や交通の基準に基づく複雑な式といった他の採用可能な基準をFlimsy 3の新しい文章で提案している。

 先進国/発展途上国を分ける区分基準の問題は、京都議定書の下で適用された付属書1/非付属書1の分類を2020年以降は廃止すべきであり、発展途上国についての正式な国連定義はないのである。データを示すにあたっては、今後はもはや先進国と発展途上国の間を区別することはないと世界銀行自身が広報している。

2018年のRTKsは正しい基準であるというコンセンサスはあったものの、加盟国は計算のための定義について議論した。ICAOのやり方では各国発行の航空運航者証明(AOC)を持つ航空機運航業者が運航するフライトに基いて世界のRTKsを各国に分配する。AOCは民間航空輸送活動を行う運航業者を認可する。そのため、たとえばビジネスジェットの運航業者はICAOのRTKの数字には含まれていない。ウルグアイのような多くの国には国際便の運航を引き受ける国営エアラインがないので、ICAOが分配する国際RTKsの数字がそもそも無い。

 IATAが提出した報告では、AOCを用いると、出発便/到着便に基づくRTKsを使用した場合と比較してオフセットすべきCO2排出物割り当てが第1段階で80%から69%に低下し、第2段階では93%から88%に低下するだろうことが示され、AOCを用いればこの制度の環境保全性が著しく低下すると述べていた。RTKsの計算には出発便を使用することに帰着する国が数カ国あったが、民間航空機の運航業者はすべて運航認可が必要となるState of Registrationを使用する提案をした国もあった。

 制度の対象外あるいは、段階的実施の中で制度の適用を免除された国は、原案では制度への自主的参加を奨励されたが、HLMの文案では「強く」奨励されるという表現に変わった。米国が出した提案では、加盟国が自主的な制度加入を選ぶということに代わり、全加盟国はこの制度に加入していると見なし、RTKや他の基準によって制度から抜け出ることを許されると見なされる加盟国はそのような選択が可能と解釈すべきというものだった。他の提案としては5年間の段階的導入期間(2021年から2025年)を、2021年から2023年を第1段階とするサイクルとして、運航業者がオフセット要件を調整するために3年毎のサイクルにするという提案もあった(段落14)。

 しかし、段階的導入案に対し、いくつかの加盟国は実施前の段階を入れるという別の方策を提案した。先進国と2018年のRTK割り当てが全体の0.5%を超えるその他の国は、加入を「奨励されて」制度適用を免除されている国とともに、2021年から2025年に関しては、2020年6月30日まで「国ごとが決めた貢献(NDCs)」(CO2排出物の総量はその国に登録のある航空機運航業者がオフセットする)をすべきであるという提案を押して中国がHLM宛ての文書で提出した。暗に、これはこの制度をパリでの気候サミット路線に沿って国が自主的に「国ごとに決定した貢献を意図した」(INDCs)誓約へと方針を合わせるものである。それとは対照に、欧州が提出したHLM文書では、CNG2020の気候目標の達成を保証するものではないので、NDCsの概念はICAOの制度に適合しない方策だと述べている。

 パリ協定のもとで得られた経験と進展に基づき、2025年のICAO総会では、先進国と2025年のRTKsの割り当てが全体の1%を超える国を含めて、GMBM制度の第1段階を2026年から2030年まで実施するかどうかと、割り当てが全体の0.5%を超える残りの国については2031年に制度に加入させるのかどうかを次に決定することになるだろうと中国の文書が述べている。中国はまた、先進国の航空機運航業者は2026年以降オフセットが必要な排出量があれば発展途上国よりも高い掛け率を使うことを提案した。

 多くの国は完全に実施が遅れるのは望ましくないとして、この制度の実施を2020年以降に遅らせるならば国連の気候コミュニティに間違った合図を送ることになると、HLMの席上でUNFCCCのオブザーバが警告したことが報告された。

 シンガポールは2018年1月1日からMRVの試験運用として実施前段階または試験段階を実施するという融和的な提案を遅れて提出し、主要先進国の数カ国はHLM後にその影響を検討することに賛成した。策定中の制度の運用開始予定は2020年1月1日だがそれ以前にそのような段階を実施し、完了するための時間と資金があるかどうか加盟国はこれから調べることになっている。

 市場の歪みを避けるためにこの制度は路線を運航するあらゆる運航業者に適用され、始点と終点の両国家が対象となる。一方の国家が制度の対象外かまたは両国家が対象外ならば、この2国間のすべての便がオフセット要件を課す対象から除外されるが、簡易化した報告要件が残ることを段落8では規定している。これについて大部分は意見もなく承認された。

 段落9に関する討論は、以前の案文にあったいわゆる「100%区分別」のアプローチと、米国がHLM文書の中で提案した「ダイナミックな」アプローチに集中した。前者の下では、この制度の実施期間全体において、あらゆる航空機運航業者のカーボンオフセット要件は個々の運航業者の排出特性よりむしろその部門全体の成長率を基準とする。これは発展途上国の成長の速い運航業者がより成熟した航空市場において成長の遅いことでペナルティーを科されることがないように考えたものである。これはエアラインにとっては、例えば新しくより燃料効率のよい運用機材への投資による恩恵がないと見る国も少しあるが、このやり方は欧州を含めて大部分の加盟国の支持を得た。

 しかし、米国の文書では、このやり方は「発展途上国を拠点とするエアラインを含め、成長の遅いエアラインに過度の負担をかけ、自社の排出物削減のための個々の運航業者へ加えられるインセンティブにはならない」と反対した。

 先進国数カ国が支持した米国提案の下では、ダイナミックなやり方は当初は区分別の成長率に有利になる重み付けをして、次に制度が進行する3年間に個々の成長率に合わせた重み付けへと移行する。

 米国と中国が段落9で提案した全く異なるやり方の扱いとして、加盟国が段落7で取り上げた多くの問題と合わせて、HLMの議長であるエレン・バラック女史(カナダ運輸省)が、ICAO理事会の検討とさらなる討論のために重要な提案の詳細を記した文書(Flimsy 3)を公表した。

段落10-16:
 反対意見がなかった段落10と11では、制度への新規加入者は3年間または排出量が2020年の世界全体の排出量の0.1%を超える年までのどちらか早い方で規制対象から外され、国際便のCO2排出物が10,000トン未満の運航業者、最大離陸重量が5,700kg未満の航空機、人の救援、医療や消火活動に係わる運航が規制の対象外となる。

 段落12では段階的実施と規制対象外が理由で制度の規制対象にならない排出量は、制度の対象になる運航業者によるオフセット要件として再分配されないと定めている。記述しないとこの排出量ギャップはCNG2020の気候目標を危うくすると欧州の文書は指摘した。しかし、加盟国はこの段落の検討については熱意がなく、元の案文が手つかずで今のところ残っていると報告は示唆している。

 段落13では、ICAOの航空環境保護委員会(CAEP)による監視・報告・検証(MRV)作業、およびこの制度が2020年から開始できるようにするための排出単位基準(EUC)と登録の作業に言及している。パリ協定に続くUNFCCCでの展開を考慮に入れたEUCの影響についてHLMの期間中に加筆され、出来るだけ早くこの3課題に関する作業を終了するよう要求した。多くの最貧国からの要望に従って、組織力強化や支援を含める表現も加わった。

 段落14に記された航空機運航業者がオフセット要件を調整するための3年間の対応期間(第1周期は2021年から2023年)に業者は毎年単一の加盟国当局に対して必要データを報告することになるが、これについては反対意見がなかった。「排出単位に過度な値段がついた」場合や「炭素取引市場の利用に制限がある」場合にエアライン産業が負担する費用保護条項に関して新しく段落15に加わった表現が、そのような基準適用をベースにした決定と次にそれらに取り組むための可能な方法のあり方をICAO理事会に要求している。

 段落16は2022年以降3年毎に実施するこの制度の有効性の見直しを載せており、見ていくべき内容を新しい文章ではより詳細に綴っている。ICAOの積極的な気候目標(記述はないがおそらくCNG2020)達成に向けたこの制度の進展状況の評価、運航業者への市場影響や費用影響、制度の作成要素の機能化や改善の可能性に触れている。序文の文章については前に言及したように、「パリ協定の温度目標を支援するのに必要な改善」の見直しは熟慮すべきである。環境NGOsらは、見直すことでより制度に厳格さが増し、世界の温度上昇を(産業革命前と比べて)2℃以内を十分下回るように抑制するというパリ協定の目標に国際航空を合わせて、世界の平均気温上昇を1.5℃以内に抑える努力を一層強化することを期待している。

 この段落について新規変更として、2035年に終了となるこの制度の作成要素への言及をやめ、代わりに2032年の年末より前にICAOの環境目標達成を目指す他の一連の方策の他の要素の貢献度も考えて、この制度を2035年以降も延長するか終了するか考えるために特別な見直しを要求している。

段落17-20:
 総会決議案のこれら最後の4段落は、この制度の主要な仕組みすなわち、MRV、EUC、登録と管理の確立をより詳細に扱っている。MRVとEUCに係わる主要問題は2017年から2019年のICAOの3年間に決めるものなので、例えば、どのようなオフセット方式がこの制度の下では適しているかについての決定は2018年まで採択されない可能性がある。しかし、新しい文章への重要な修正がICAO基準(SARP)のEUCへの適用で、この制度の下でのオフセットの質の満足度に役立つだろう。適用性について提言を行うための、EUCに関する常設の技術顧問機関が設立されることになっている。

 段落17はまた、MRV制度の実施を検討し、理事会とCAEPに対し、2017年6月までに理事会による採用を目的としたSARPsと指導書の作成を要請している。

 この段落は登録の確立を2018年までに採択するための指導書であり、ICAOの支援の下で2021年1月1日までに中央登録への集約化を運用開始するために、加盟国や加盟国グループが単独登録またはグループ登録を確立するために必要な調整が時間内に行われるようにする。

 段落17ではまた、常設の技術諮問機関とCAEPの支援を得て、理事会がこの制度の作成要素の見直しを含め、この制度を監督する予定であると記している。加盟国はまた、2020年までにこのICAO制度に準拠して国内で施行するために確立すべき各国の法的枠組みを作る必要がある。

 段落18では、この制度を2020年から実施するための組織力強化と支援実現のため、特にMRV制度の実施と登録の確立に関する要件を強化している。これには2017年以降のすべての地域におけるセミナーとトレーニングの体系化、および財政支援が必要な場合にはその円滑化が含まれる。

 段落19では、クリーン開発メカニズムや、2020年以降UNFCCCでその後継となるメカニズムも含め、発展途上国の利益になるような排出単位の普及を促進し、加盟国による国内の航空関連プロジェクト開発を奨励するよう、理事会に要求している。最後の段落20では理事会に対し、UNFCCCの下のオフセットプログラムで使用する航空関連の方法論のさらなる開発を行うよう要求している。

期限に近づいて
 3日目の開始時に提示された文案(Flimsy 2)は最終日の討論を反映して少し「整理」した更新が行われる予定である。今までのところ原案のプロセスではUNFCCC内ではよいのだが、差異があることを示す括弧書きの使用を避けてきた。段落7と9に関する未解決の問題の概要を述べる文書とともに、修正された総会決議案はICAO理事会の現在の第208会期の間に提示され、6月半ばの会議で検討する。残る隔たりを埋めるために、二国間会談や多国間協議も引き続き加盟国間で続けられると見込まれている。

 元理事会議長のロベルト・コーベ・ゴンザレス氏はGreenAir誌に対し、ICAO総会では最後までさかんな駆け引きが続くだろうと予測しているが、差異があるにしても、交渉に深く関わる人々は合意は得られると楽観的である。気候保全課題について前回ICAO総会での対立に長く係わったコーベ氏は、GMBM高官レベルグループの2回の会議で議長を務め、HLMでのメキシコ代表団のメンバーだった。HLM終了後すぐのGreenAir誌によるインタビューで、彼の後任であるアリウ博士は、HLMが大変実りのある成果を出し、加盟国は今ではお互いの立場と利益や意見をよりよく理解していると語った。「作業がまだいくらか残っているが、我々には多くの提案があり、歩み寄りとよりよいコンセンサスを得ることができるように作業ができることはまちがいない。」と彼は語った。

 先週、日本において開催されたG7サミットにおいて最も富んでいる工業国のリーダーらは、合意が得られるだろうというこれらの見通しを深めた。その後に発行された声明(p.28)で、以下のような主張がなされた。「国際航空の分野で実効性のある取り組みがすぐに必要であることを認識し、2020年以降のカーボン・ニュートラルな成長を実現するために建設的な対話を通じて第39回ICAO総会で決定に至ることで、我々はグローバル市場に基づく方策採用への共同作業を行うという強い決意を示せる。我々は世界のすべての指導者に対して力を合わせて今年これからの決定を支援するように勧める。」