米国では空域全体の安全性強化と効率性の改善のために数年来、NextGenの取り組みが行われている。単純に言うと、A地点からB地点まで航空機がより直線的に移動できるように、最先端の技術や運航方式を配備してゆくというものである。米国連邦航空局(FAA)はエアライン、空港、航空関連団体、州政府や地元自治体等と協力してこの取り組みを進めている。
空港が複数あり、航空の交通流が複雑な大都市圏で効率改善により空域全体の効率を安全に向上させることは特に重要である。FAAは関係機関と連携して空域の最適化や精密な飛行ができる衛星航法方式の利用によって地域内の交通流の改善を目指している。その実施により航空機の燃料燃焼削減と排出物の削減も期待できる。
当初、FAAと航空産業は21の大都市圏を設定したが、その中からプロジェクトの効果が短期で上がる13箇所を優先扱いにした。その後FAAがさらに2箇所を加え、3箇所の延期を決め、現在進行中あるいは完了の12箇所が残った。
進行状況は
https://www.faa.gov/nextgen/snapshots/metroplexes/summary/
で一覧できる。完了した地域はD.C.、ヒューストン等4箇所である。
この12箇所の大都市圏の中の、南カリフォルニア大都市圏プロジェクトが環境影響評価書の公開、パブリックコメントの募集、FAAによる結果評価を経て間もなく実施段階に入る予定である。
対象空港はロサンゼルス国際空港(LAX)、バーバンク・ボブ・ホープ空港(BUR)、ロングビーチ空港(LGB)、オンタリオ国際空港(ONT)、ジョン・ウェイン空港(SNA)、サンタ・モニカ市営空港(SMO)、ヴァン・ヌイ空港(VNY)、パーム・スプリングス国際空港(PSP)、サンタ・バーバラ市営空港(SBA)、サンディエゴ国際空港(SAN)等21空港である。
プロジェクト実施までの経緯
2015年6月10日に環境影響評価書案が公表され、パブリックコメントを求める期間が30日間に設定された。だが期間延長の要望が多く、60日間延長された後、補足的情報を追加してさらに30日延長された。最終的には2015年10月8日までの120日間にパブリックコメントが求められることとなった。
2016年9月2日に環境影響評価書最終版が公表され、米国環境政策法(National Environmental Policy Act, NEPA)の下で問題になるような影響は無いと結論づけた。この最終版とそれに係わる全資料及びFAAによる「顕著な影響が無いという認定と決定までの経過」は、南カリフォルニア大都市圏プロジェクト環境影響評価関連文書のウェブサイトで一般に公開されている。なお、このプロジェクトの騒音影響については後述する。
FAAは2016年11月から2017年4月まで、この新飛行方式を段階的に導入する予定である。実施に係わる一般への情報提供はNextGen Community Engagement ウェブページで行われる。なお、2016年10月25日から27日までは、オープンハウス形式で一般への情報公開が行われることになっている。
騒音影響分析
FAAが実施するプロジェクトについてNEPAやその他環境影響に係わる配慮が十分になされているのかを評価するためにFAA Order 1050.1E(現在は1050.1F)が用いられる。その中の付録Aの14.2b節で騒音分析について記述されているが、そこではIntegrated Noise Model(INM)、Heliport Noise Model(HNM)、Noise Integrated Routing System (NIRS)の3つの最新版のうちの1つを航空機騒音評価に使用するように書かれている(現在の1050.1Fでは付録B-1.4節、AEDT。)。FAAは通常、評価対象エリアが広域で、地上3,000フィートを超える高度での変更が評価対象ならばNIRSを使用するので、今回の予測ではNIRSが用いられた。このプロジェクトによる大幅な騒音影響があるのかどうかを判断するため、FAAは独自の基準を用いた(65 dB DNLかそれ以上の騒音曝露地域内の騒音過敏地域において1.5 dB DNLかそれ以上の騒音増大が見られる地域があるのかどうか)。提案された変更の実施が開始される2016年から5年先(2021年)までの数年間における、提案された変更を実施する場合としない場合に関する騒音分析が行われた。
騒音影響予測では評価対象地域における以下の条件の下でのDNL(日本のLdnと同じ。)曝露の値を計算した。
1. 米国国勢調査局による国勢調査の区域の中心(調査区域の中心点)
2. 交通省法で保護対象となる特定文化財と地域、米国歴史保護法で保護対象となる歴史的資産を表す任意の点
3.上述の1と2以外で、騒音に過敏に反応する可能性がある場所で航空機によるDNL曝露レベルを記録するための、調査対象地域全体を0.5海里(926m)の 間隔で区切ったグリッドポイント
飛行方式の変更により大幅な騒音影響があるかを判断するにあたり、変更を行う場合と行わない場合のDNLの差が、DNL60dBから65dBの騒音暴露地域において3dB以上であるか、DNL45dBから60dBの騒音暴露地域において5dB以上あるのかを分析している。NIRS予測の結果は以下のとおりである。
1. 騒音に対する反応が敏感なDNL65dB以上の航空機騒音曝露地域において、DNL1.5dB以上の騒音上昇が起きることはない。
2. DNL60dBから65dBの間の騒音に曝露する地域で3dB以上のDNL上昇になることはない。
3. DNL45dBから60dBの間の騒音に曝露する地域で5dB以上 のDNL上昇になることはない。
以上のように、飛行方式の変更による影響が見込まれる地域において大幅な騒音影響や報告すべき騒音上昇につながることはないことから、FAA Order 1050.1E付録Aの14.4cの段落に係わる要件である騒音の軽減対策は不要である、とFAAは結論づけている。
NextGENと航空機騒音
フェニックス・スカイハーバー国際空港(アリゾナ州)では2014年9月18日にFAAがNextGEN絡みの飛行経路変更を実施して以降住民からの騒音苦情が増えている。(https://skyharbor.com/FlightPaths )訴訟も起きている。フェニックス・スカイハーバー国際空港のニュースサイトでは各空港の騒音問題に関わる最近のニュースが掲載されている。(https://skyharbor.com/FlightPaths/NewsStories )
参考URL
1.SoCal METROPLEX EA Documents(南カリフォルニア大都市圏プロジェクト環境影響評価関連文書(FAA)):
http://www.metroplexenvironmental.com/socal_metroplex/socal_docs.html
2. Finding of No Significant Impact and Record of Decision (FONSI-ROD)(顕著な影響が無いという認定と決定までの経過):
http://www.metroplexenvironmental.com/docs/socal_metroplex/final/SoCal_Metroplex_FONSI_ROD_160818_FINAL%20Electronic%20Signature.pdf
3.Los Angeles World Airports, Noise Management, FAA's Southern California Metroplex Project(ロサンゼルス市の国際空港(騒音管理:FAAの南カリフォルニア大都市圏プロジェクト)):
http://www.lawa.org/welcome_lax.aspx?id=12168
4.Los Angeles World Airports, Noise Management(ロサンゼルス市の国際空港(騒音管理)):
http://www.lawa.org/welcome_lax.aspx?id=788
5.FAA, NextGEN, Community Engagement -- Southern California(FAAのNextGen Community Engagement ウェブページ):
https://www.faa.gov/nextgen/communityengagement/socal/
6.フェニックス・スカイハーバー国際空港の航空機騒音に関する訴訟 :
http://www.usatoday.com/story/todayinthesky/2015/06/01/phoenix-sues-faa-over-flight-path-changes/28329559/