2016年9月27日から10月7日にかけて第39回国際民間航空機関(ICAO)総会が開催された。総会において市場メカニズムを利用した温室効果ガスの削減制度(GMBM: Global Market-Based Measure)についての協議が行われ、全会一致で決議された(国土交通省, 報道発表資料)。GMBMには我が国を含む64か国が自発的な参加を表明しており、2021年より運用が開始される。それにより、わが国の航空会社は国際航空より2020年より増加したCO2排出量に応じて排出権の購入を義務付けられる。
2015年12月に国連気候変動枠組み第21回締約国会議(COP21)が開催され、京都議定書に変わる新たな法的枠組みである「パリ協定」が採択された。パリ協定では主要排出国を含むすべての加盟国に温暖化ガスの削減目標が定められ、その実施手法の一つとして市場メカニズムの活用が位置づけられている。一方で、京都議定書において国際航空からの温室効果ガス排出の抑制・削減はICAOを通じて活動することが定められていたことから、GMBMはパリ協定や国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)とは独立した制度として設計されている。
なぜ国際航空の排出権取引か?
現在、国内・国際を含む民間航空からのCO2排出量は世界全体の排出量の約2%を占めている。国際民間航空からの排出量は航空全体の65%であり、世界全体の排出量の1.3%を占めている。ICAOは第38回総会において2020年以降CO2の排出量を増加させないことを中期目標(Carbon Neutral Growth 2020)として決定した。目標達成の手段としては航空機技術、運航技術の効率性向上、代替燃料の活用などがあるが、目標達成には十分でない。そのため、同総会において補完する手段として国際航空のためのGMBMの作成を決定している。
ICAOが導入するGMBMとは?
GMBMはCO2削減プロジェクトにより発行されたカーボンクレジットを用いて、2020年以降に国際航空において増加したCO2排出量を相殺するスキームである。
具体的には以下のようなプロセスで実施される。まず、植林、太陽光発電、風力発電などの省エネプロジェクトにより削減されたCO2量に応じて認証機関がクレジットを実施主体に発行し、実施主体はカーボン市場にクレジットを売却する。
航空会社は国際航空によるCO2排出量を計算し、結果の証明を外部機関から受けた上で各国政府に申告する。各国政府とICAOは結果に基づき航空会社に2020年基準を超える量に相当するクレジットの購入を求める。
今後、GMBMに関して航空会社が申告するCO2排出量の監視・報告・証明システムや排出クレジットの設定などが検討される。それらの検討内容も注視する必要があろう。
参考資料
環境省, 2015年12月13日付報道発表資料,「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21) 京都議定書第11回締約国会合(CMP11)等 (評価と概要)」, http://www.env.go.jp/press/files/jp/28727.pdf .
国土交通省, 2016年10月7日付報道発表資料,「第39回国際民間航空機関(ICAO)総会結果概要について」, http://www.mlit.go.jp/common/001148404.pdf .
ICAO, 第39回総会決議A39-3 (Resolution A39-3), “Consolidated statement of continuing ICAO policies and practices related to environmental protection – Global Market-based Measure (MBM) scheme”, http://www.icao.int/environmental-protection/Documents/Resolution_A39_3.pdf .
ICAO (2012) “ICAO’s work on the development of a global MBM scheme for international aviation Environmental Report 2016”, Environmental Report 2016.
(文責)研究員 高橋達