海外情報紹介 航空による大気質への負荷への取り組みに関する英国産業グループSustainable Aviation*の報告書の公表

 2017年1月18日−英国では、都市部の大気質問題はますます論争を呼ぶ問題となり、ロンドン周辺の航空交通容量の拡張に関する議論においては地域の大気汚染物質レベル上昇の可能性に不安が集中している。航空関連産業グループSustainable Aviation (SA)は今回、英国空港の空港内及び周辺の大気質と、航空部門による大気汚染影響軽減対策に関する報告書を公表した。SAによれば、英国では窒素酸化物(NOx)と粒子状物質(PM)の排出量全体に占める航空部門の排出量の割合はごくわずかだが、空港によっては周辺の大気質のレベルが健康のための目標レベルを超えている。そのため大気質は英国政府と航空産業にとって特に重要性が高いとSAは主張し、今回の報告書ではNOxとPM排出物削減のための様々な取り組みを取り上げ、正しい政策支援があればさらなる削減が可能になるいくつかの分野を示している。

 英国全体では、主要な大気汚染物質の排出量は減少し、政府が定めた法的拘束力のある排出量上限値内に収まっている。しかし、英国中で600を超す測定点が健康のための大気質目標に適合していないと地方自治体が報告している。高速道路や幹線道路沿いの都市部に集中する傾向があるが、目標値を達成できない地域は大気質管理区域(AQMA, air quality management area)に指定される。ヒースロー空港だけはAQMA内にあり、他に4空港(バーミンガム、エディンバラ、ガトウィック、マンチェスター)がAQMAに近接している。AQMAに指定されたエリアは、地方自治体が策定する大気質に関する活動計画(AQAP, air quality action plan)により、できるだけ早期に目標達成する必要がある。AQAPは主に大気質改善のための重要な地域戦略であるが、公共輸送の改善や緑地の確保という様々な副次的効果もある。

 航空機は英国全体のNOx排出量の1%を占め、PM10(直径10マイクロメートル未満の粒子状物質)排出量は0.1%を占める。空港全体の総排出量で考えると、地上施設、空港道路、駐車場といった航空機以外の排出源が含まれるため、航空機のみの排出量よりもやや上回ると指摘している。いくつかの空港では排出源毎の排出量を数値で表した大気質に係わる排出物データを定期的に作成している。SAの報告書ではガトウィック空港とヒースロー空港の直近のデータを使用して空港におけるNOxとPM10の排出源を示している(図1)。

 SAでは、エンジンを使ったタキシングを削減、駐機中の航空機のGPU等の使用、空港内の乗り物を効率的に運転するためのトレーニング、再生可能エネルギー技術の採用、新世代のより効率的な航空機の使用の促進等、幅広い排出物削減の取り組みが行われている。

 空港へのアクセス手段は大気汚染に影響を及ぼす重要な寄与因子で、政府が道路交通の排出ガス削減に集中して取り組むことが英国全体の大気汚染の改善につながるとSAは述べている。英国では2013年のNOx排出量の32%、PM10排出量の18%の排出源が道路交通だった。空港近辺の非空港関連の道路交通による排出物は場所によって大きな差異があり、例えば、ガトウィック空港周辺ではNOxが約14%を占めるが、ヒースローではその割合は27%である。ガトウィック空港とヒースロー空港では空港のNOx排出量の約9%、PM10排出物の38%が空港関連交通に由来している。

 また、英国には地上のアクセス手段からの排出物を削減するために以下のような対策を講じている空港がある。
 ・小売店関連の配送は貨物集積センターで処理する回数を増やし、空港への大型輸送車(HGV)の乗り入れ回数を減らす。
 ・電気自動車用充電設備の設置や水素燃料の供給により超低公害車の利用を支援する。
 ・時差出勤やカー・シェアリングや自転車利用により、職員の通勤による排出物を削減する。
 SAの大気質に関する作業グループによるこの報告書では、引き続き排出物削減をはかるにあたっては、以下の4つの方策をこれからの課題と位置づけている。
 ・道路交通の改善に重点的に取り組み、空港アクセス手段の向上を支援する。
 ・政策的に空港の特殊車両やその他の車両の低公害化をさらに後押しする。
 ・燃焼による排出物がより少ないサステナブルな航空燃料開発に民間企業からの投資を呼び込むための確固たる政策を打ち出す。
 ・英国のEU離脱のプロセスの進行中及び終了後において、研究開発計画への継続的な支援を確保する。

資料ダウンロード:
http://www.sustainableaviation.co.uk/uk-aviation-and-air-quality/

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図1 空港における窒素酸化物(NOx、左図)と粒子状物質(PM10、右図)の排出源。ガトウィック空港(2010年)とヒースロー空港(2013年)の排出物データより。

*Sustainable Aviation(SA)・・英国の航空産業のサステナブルな将来を実現する目的で、エアライン、空港、製造メーカー、航法業務プロバイダー等業界全体で長期戦略を策定するため、2005年に設立された取り組みの名称。現在では、主要な英国の航空宇宙メーカー、エアライン、空港、航空航法業務プロバイダーの90パーセント以上が加盟している。