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この報告書はANMAC(Aircraft Noise Monitoring Advisory Committee)技術作業グループが交通省のために行った調査の報告書である。この調査は、1982年の民間航空法の第78条の目的で騒音に関して指定空港となっているロンドン3空港(ヒースロー、ガトウィック、スタンステッド)について、騒音規制値や罰則を課す等の騒音管理装置が適切なバランスを保って効果的に作用しているという確信を得るために、また出発時の騒音軽減方式の見直しのために行われた。ANMACは3空港の航空機騒音軽減と飛行経路遵守の技術的及び政策的側面に関する助言を交通省に対して行う立場にある。
この見直しを支援する作業の多くは、英国民間航空局(CAA)の環境調査・コンサルタント部(ERCD)がANMAC技術作業グループの他のメンバーとの密接な連携の下で行った。ANMAC技術作業グループのメンバーには交通省、3空港、3空港のスケジュール調整委員会、スケジュール調整委員会のための技術アドバイザー、NATS等が含まれる。
この報告書の構成は以下のようになっている。
- 第二章 騒音軽減の目的で出発を見直すために行う検討の土台として、英国における航空機の出発が通常、どのような段階を経て行われるかを解説し、各段階における責任の所在はどこにあるのかを概説
- 第三章 ロンドンの指定3空港の出発に係わる騒音規制値と、それ以外の騒音管理のための装置に関するこれまでの経緯を概説
- 第四章 様々な空港の上昇プロファイルの比較と航空機の平均高度のこれまでの推移に関する調査結果
- 第五章 出発方式の運航上の変更が騒音や排出物に及ぼす影響の検討
- 第六章 飛行経路をより正確に飛ぶことによって出発経路沿いに発生する騒音からのrespite(一時的に騒音から解放される時間帯を作ること)を地域社会に提供できる可能性の検討
- 第七章 調査の結論と提言
第二章 出発の諸段階とそれに伴う責任の所在
第二章概要(p.13)より
- 出発時に使用するSID(標準計器出発方式)の計画を立てるのは通常エアラインであり、時間的に十分な余裕(数時間前、数日前、あるいは数ヶ月前)を持って行う。
- 通常航空機の型式毎に、どの騒音軽減出発方式(NADP)を使用するか方針を設定し、数々の環境要因や運航要因の調和をはかっているのはエアラインである。
- SIDからの離脱のための航空機の無線誘導が可能になるのは4,000フィート以上の高度(またはSIDによっては3,000フィート以上の高度)であり、必要に応じてそのための介入をするのが航空交通管制である。
- 多くの空港で、出発機と到着機の交差を容易にするため、7,000フィート未満の特定の高度での水平飛行を航空機に要求する指定をしているのがSIDである。
- 将来の空域システムでは、空域設計を改善して出発から目的地までのさらに直線的な飛行を可能にし、連続上昇運航(CCO)を増やさなければならない。航空機騒音の影響を受ける人口を減らすための人口密度の高い地域を避けた出発経路を作り出す能力があるのが性能準拠型航法(PBN)である。
第三章概要(p.29)より
- 現在の出発時の騒音規制値(日中94 dBA、移行時間帯89 dBA、夜間87 dBA)は2001年にロンドン空港で施行された。騒音規制値は離陸のための滑走開始点から6.5 kmの基準距離に固定して定められた。ロンドン3空港ではこれより近接する地点には住宅地が比較的少ないからというのがその理由であり、現行世代の航空機は通常6.5kmの地点に到達するまでに高度1,000フィートまで上昇する能力がある。これにより離陸後できるだけ速やかに上昇し、測定地点到達前にできるだけ早くエンジン出力(と騒音)をエアラインに削減させるための動機付けになるだろうと政府は見込んでいる。なお、各空港は違反したエアラインに対し以下のような罰金を科し、徴収金は地域のプロジェクトや慈善活動に使われている。
- 旧型の航空機が徐々に引退してリプレイスされることが大きな理由となり、現在は比較的騒音の違反は減っている。
- まだ運用中の747-400型機の引退まではヒースローの騒音規制値を下げる余地は限られている。現在の運用機材の半分は2021年まで、残りは2024年までの引退が見込まれている。日中と移行時間帯の規制値を1から2 dB下げるという小規模な削減であれば、これまでの実績値を超えるほどの違反数を生み出すことなく、ヒースローで実現可能かもしれない。
- ガトウィックとスタンステッドの騒音規制値の見直しの結果が示すのは、現在これらの空港で運用されている機材に大きな影響を与えることなく、日中、移行時間帯、夜間の規制値を最大3dBか場合によってはそれ以上、下げることができる可能性である。騒音規制値を下げれば最も音のうるさい航空機の型式の再導入を阻む歯止めとなるだろう。
- 離陸滑走開始点から6.5 kmの地点以降は平均騒音レベルの測定値が下がり続けるので、最低高度や上昇勾配の要件を含めた他の騒音管理の方策によってさらに騒音が抑制されていると思われる。騒音規制値以外のこれらの騒音管理方策の遵守率は大変高い。しかし、概して地域社会は出発騒音に不満を抱き続けていることから、既存の規制装置では地域社会の不安を解消するには不十分かもしれない。
- 離陸滑走開始点から6.5 kmの地点を超えたところに追加で設置する監視装置は飛行経路下で騒音レベルが徐々に小さくなるのを検証するのに役立つ。各監視装置に新しい騒音規制値や勧告レベルを設定することができるかもしれない。
- 現在の出発時の規制値はA特性騒音レベル(*注1)の最大値のLAmaxで定義されている。LAmaxは騒音事象の継続時間に配慮しておらず、出発時の騒音軽減方式が異なれば差異が出る可能性がある。それに代わる単位としてA特性騒音暴露レベル(SEL)があり、音の強さのみならず騒音事象の継続時間も表しているが、一般人にとってはよりわかりにくい可能性がある。にもかかわらず、(空港のNTK(Noise and Track Keeping)システムですでに監視されている)様々な距離での出発時の騒音レベルをSELで補足的に報告することで、地域社会との係わりが強まる可能性がある。
第四章 出発の上昇勾配
第四章概要(p.54)より
- 6.5 kmの地点で高度1,000フィートを超えた後は、高度4,000フィートまでの上昇勾配を最低でも4%に保つという要件は、飛行経路下の地点で騒音レベルを徐々に減らすことを確保する意図による。
- 地元の地域団体は他の国際空港、たとえばパリ・シャルルドゴール空港の急な上昇勾配と比べてヒースローの最小上昇勾配4%を疑問視するが、SIDの最小上昇勾配は通常、出発時の滑走路端(Departure End of Runway, DER)の地上5mに設定される原点からの勾配で測るため、ロンドンの6.5 kmすなわち高度1,000フィートからの4%の最小上昇要件と比較した下図8を見れば、パリ・シャルルドゴール空港の5.5%という急勾配でも離陸時滑走開始点からほぼ15kmまですなわち2,200フィートの高度までは、ヒースローより高度が低いことがわかる。
勾配の%の数字の単純な比較で、急勾配の方が航空機の高度が高く飛行経路下の騒音が小さいとはいえない。
ちなみに図の緑色の線は、ヒースロー空港の東向きのDetlingルートの最小上昇勾配を、離陸滑走開始点から6.5kmの地点すなわち1,000フィートの高度から4,000フィートの高度まで5%にするという、2018年1月から12月まで実施している試行の高度を参考に示したものである。 - ここ数年間の一般的な傾向として、ボーイング777-300ERやボーイング787-8/9やエアバスA350のような一層燃料効率のよい双発機を使用することがヒースローを利用するエアラインでは増えているが、Detlingルートで中東へ向かう機材に例外的に4発機が増えている。ここ数年地元の地域社会では、特にA380のような大型で重量のある航空機についてclimb performance(上昇能力)が劣っているのではないかという不安が高まっている。AIPの4%の上昇勾配の要件に違反する件数は多くはないが、その数少ない違反の中でA380の違反が占める割合が高い。
- 他空港でのA380の運航の状況と比較するため、無料で利用できるADS-Bデータを使って他の国際空港における同等の出発プロファイルとヒースローで観測されたA380の平均的な上昇プロファイルを比較したところ、ヒースローで運航する事業者が他の空港よりも顕著に低い高度でこの航空機を飛ばしているという傾向は見られなかった。
- また全般的に、ヒースローでは航空機の平均高度が徐々に低くなる現象がここ数年観測されている(場合によっては最大で400フィート高度が低くなっている)。しかし、音の静かな機材が引き続き、旧型で音のうるさい型式の後継機として置き換わっており、夏季の57dB LAeq, 16hの騒音コンター面積は年々減少していることから、航空機の高度の低下が地上の騒音レベル上昇につながってはいない。
- 出発時の航空機の平均的高度が徐々に下がっていることが観測された主要な理由が3つ特定された。
- 新世代の航空機とエンジンは、エンジンの負荷、騒音、排出物そして費用を最小限にするための推力の最適化の範囲がかなり大きいので、そのことが部分的に、航空機のおおまかな3分類(*注2)について観測された航空機の平均高度の漸進的低下傾向を説明するかもしれない。
- エアラインの出発方式が次第に変化してきたことが以前より航空機の高度が低くなった原因であるといういささかの証拠がある。
- 航空機が大型化し、重量が増している。小型機は次第に大型機にとってかわられ、旅客重量が増えている。
*注2:狭胴の双発機(A320やB737シリーズ)、広胴の双発機(A300、A330、B767、B777、B787)、広胴の4発機(A340、A380、B747)の3分類。
第五章 出発騒音削減の選択肢
序論
航空機騒音管理のためのICAOのBalanced Approachの4つの主要素の1つが騒音軽減運航方式であるが、これは、1. 航空機騒音の全体量を減らす運航方法、2. 航空機と地上の間の距離を離す運航方法、3. 騒音影響を受ける人口を減らす運航方法、4. 航空機騒音からの一時休止を提供する運航方法、の4つに分類できる。
Balanced Approachの他の3要素は、1. 発生源における騒音削減、2. 土地利用計画と管理、3. 運航規制であるが、1については現在、より静かな航空機の導入を促すために国際的な騒音基準の厳格化がはかられ、2については空港周辺地域の宅地開発が制限され、3については特定の時間帯の運航便数または運航の型式の制限が行われている。1についてはまた、ジェット機の50年以上に渡る歴史の中で、技術の進歩が間違いなく航空機騒音の大幅な改善を実現した。ボーイング737であれば、737-200(58トン)と737 MAX 8 (82トン)の間では最大離陸重量が40%増加したにもかかわらず、騒音フットプリント(70 dBAの航空機騒音レベルにさらされる地上の面積)は77.0 km2から9.5 km2と大幅に減少している。長期的に航空機の騒音性能が改善している別の証拠としては、ロンドン・ヒースロー空港の57 dB LAeqコンターの面積が2000年から2016年の間に25%減少しているということもある。
ただ、空港における騒音関連の運航制限が新型機の設計に影響を及ぼした例もあるが、運航便数の増加によって、ここ数年間は技術による改善効果がいささか相殺されているという面もある。
騒音軽減出発方式
高度と速度を得るためにどれだけのエネルギーを使用するか、どの高度で出力の削減と加速を始めるかの間のバランス、そしてその順序がエアラインの騒音軽減出発方式に示され、また標準運航方式(SOP)に組み込まれている。方式の数が増えて混乱が生じ、安全レベルに影響が出ることのないように、これらの方式は厳格に制限されている。ICAOの指針では、特定の航空機の型式について採用するのは2方式までを推奨している。これはEUの規則では義務化されている。
ICAOの指針で示されている2つの騒音軽減出発方式の例として、1つめは飛行場近くの飛行経路の真下の騒音を軽減できるNoise Abatement Departure Procedure 1(NADP 1)で、2つめは飛行場から離れたところの騒音を軽減できるNADP 2である。NADP 1は、離陸後一定高度で離陸推力から上昇推力に減じ、巡高高度に向け加速を開始する高度までは離陸速度を維持する方式である。NADP 2は、離陸後の一定高度で離陸推力から上昇推力へ減じるが、速度に関しては離陸速度から加速を行う方式である。空港に近接した場所でのNADP 1と2の間の騒音の差異は、離れた場所での騒音の差異よりも通常は大きい。
通常、エアラインが実施しているのは、以下の方式である。
- NADP 1:1,500フィートで上昇推力へと切り替え、3,000フィートで上昇速度に加速する。
- NADP 2:1,000フィートで上昇速度へと加速し、上昇推力へと切り替える。
NADPの事例研究
騒音軽減出発方式が騒音や、窒素酸化物(NOx)の影響を受ける地域の大気質や、二酸化炭素(CO2)に及ぼす影響を調べるため、引退するボーイング747-400の後継機であり、通常エアラインが運航する航空機の中で最も音がうるさい型式の1つになると見込まれるエアバスA380について多くの方式で予測が行われた。
推力を削減する基本的なNADP 2方式を、6.5 kmの騒音監視装置で記録される最大騒音レベルを減らせると予想される別方式へ変更することについて騒音評価が集中的に行われた。(NADP 1に切り替えるか最大推力のNADP 2に切り替えて)監視装置上空の航空機の高度を上げるか、(上昇出力へとエンジン出力を減じる運航を行って)航空機が監視装置を通過する前にエンジン出力を最低限の上昇設定に絞るかのどちらかによる騒音削減が可能である。
現在使用されている一般的な狭胴機と双発の広胴機を対象とした類似の、しかしより範囲の狭い分析もエアバスA320、ボーイング737-800、ボーイング777-300ERについて行われた。
分析の結果、6.5 kmの地点と飛行経路下の他地点において、使用した代替の出発方式によっては最大2 dBかそれ以上のLAmaxの削減があったが、航空機の高度が上がると飛行経路の側方への騒音伝搬が変化するため、特に飛行経路の両側の他地点でのLAmaxが上昇していると判明した。
分析が示す結論は、単一のNADPではあらゆる地点での出発騒音を削減することはできないということである。NADPを変えてもある地点から別の地点に騒音が移動するだけで、ロンドンの指定空港の出発経路下の人口分布が様々であることを考えれば、1つの方式ですべての住民の騒音軽減をはかることはできない。
地域の大気質については、NADP 2からNADP 1方式に変更すると高度3,000フィートまでのNOxが減少するが、1,000フィート未満での変化は無い。NADP 1方式では3,000フィートまでの上昇はより速やかになるが、2つの方式共1,000フィートまでは差異がないのがその理由である。結果として、地域の大気質への影響はほとんど変わらない。一方で、(燃料燃焼による)CO2は、航空機が出発の後半でフラップ角ゼロの状態にして加速するので、NADP 2からNADP 1に切り替えるとわずかに増加する。
分析結果では、よりエンジン出力を減ずる上昇方式に切り替える高度3,000フィートまではNOxにほとんど変化はないが、CO2はわずかに増加する。また、最大推力の出発方式では3,000フィートまでのNOxの排出量が増えるが、巡航高度までのCO2排出量は同等の推力削減方式と比べてわずかばかり少ない。
第六章 出発騒音管理のための他の可能性
序論
出発機の飛行経路の横方向での最適化では、垂直方向の最適化と同様の航空機騒音削減はない。むしろ騒音を再分配する。地域の人口分布の状況によっては、横方向の飛行経路を変更することで一定レベルの騒音にさらされる正味人口を減らすことはできるかもしれないが、その一方、騒音影響が悪化する人口が他に発生する。
航法援助地上施設で航行する必要性があった以前は横方向の飛行経路を最適化する能力には限界があった。性能準拠型航法(PBN)に移行して航法精度が上がり、より正確に飛行経路をたどることが可能になった。またPBNには人口密度の高い地域を避けた出発(と到着)の飛行経路を作って航空機騒音の影響を受ける人口を減らす能力がある。
飛行経路の運用で騒音を打ち消して騒音を軽減
航空機騒音に関しては、航空機騒音による悪影響を顕著に受ける英国民の数を制限し、可能であれば減らすことが英国政府の全体目標である。1つの飛行経路に交通を集中させれば通常は上空を航空機が通過する住民の総数は減る。しかし、PBNは複数の飛行経路を使うことでrespite(騒音から解放される時間帯)を住民に提供することもできる。政府の指針では、飛行経路を増やすと騒音にさらされる人口は増えるかもしれないが、騒音影響全体を捉えるならば望ましい面もあると認めている。
Civil Aviation Authority (CAA)が2016年に公表した空域設計指針(CAP 1378)ではPBNを適用する場合の検討項目や騒音影響軽減のための最良策を提示している。飛行経路の運用により、ある飛行経路からの騒音を軽減できる度合いは経路間の間隔と航空機の高度に左右されると指針は認めている。CAP 1378から抜き出した図40を見ると、高度4,000フィート(紫の棒)の航空機の音の大きさの減少を明確に認識できる(clealy noticeable)5デシベル減にするためには経路を横方向に1,500m移動しなければならない。また音の大きさを半減(10デシベル減)するには2,500m、おおいに音の大きさを減らす(much quieter)20デシベル減なら5,000m 移動しなければならない。もし利害関係者が期待する騒音軽減がmuch quieterなら2,500mの移動では不十分ということになる。
また、航空機の高度が高くなるほど(すなわち空港からの距離が遠くなるほど)、飛行経路の横移動による騒音軽減をある程度得るにはさらに間隔をあけることが必要で、空域設計の観点からすると、必ずしも常に実際的な方策とは言えないかもしれない。
航空機騒音からのRespite
航空機騒音からのrespite(一時的に騒音から解放される時間帯を作ること)を人々がどのように認識するか理解を深めるために、ヒースロー空港は実験室での聞き取りテストによる調査を委託した。2018年2月にヒースロー空港が公表した結果によれば、連続した音の差が2から3デシベルの場合は顕著な認識はされなかったが、それでもまるきり差が無いのと比べれば、空港に対する好感度が上がるだろうと半分以上の参加者が答えた。人々が差異を認識するには5から6 dBの差が必要かもしれない。しかし、人々が航空機騒音から解放されたと感じるためには平均騒音レベルの差は少なくとも7か8 dBは必要かもしれない。
第七章 結論と提言
Ⅰ 結論
騒音規制値
離陸滑走開始地点から6.5 kmという固定の基準距離での騒音規制値は、1992-1993年以降はA特性騒音レベルの最大値LAmaxで表されているが、2001年に決められた現在のロンドン空港の出発騒音規制値は日中が94 dBA(騒音計のA特性(聴感補正)で測定した値)、移行時間帯が89 dBA、夜間が87 dBAである。
長い間、騒音規制値が変わっていないという認識から、2013年3月に政府は航空政策の枠組みの中で、適切なバランスを保った効果的なものであることを確保するため、騒音規制値や罰則の適用を含め、ANMACがロンドン空港での出発騒音軽減方式を見直すと告知した。
ボーイング747-400型機が引退するまで、ヒースローでは騒音規制値を下げる余地があまりないとANMACの技術作業グループは調査の中で見定めた。日中と移行時間帯の規制値を1から2 dB下げる程度なら、これまでの実績値を超えるような違反数の増加にはならないだろう。
ガトウィックとスタンステッドでは現在の運用機材に大きな影響を与えることなく、日中と移行時間帯と夜間の規制値を、場合によっては最大3デシベルかそれ以上下げられることを見直しの結果が示している。
両空港の騒音規制値の引き下げは最も音のうるさい航空機の型式の再導入を食い止める歯止めになるだろうが、それはすなわち、騒音規制値を等しく3空港に課すことがもはや不可能だということを意味する(これは長らく政府の政策上の問題であった。)。
6.5 kmの地点での騒音レベル削減は、エアラインの騒音軽減出発方式の変更によって達成可能だが、飛行経路下または飛行経路の側方の別の地点の騒音レベルが上昇するだろうと分析は示している。
騒音軽減出発方式が出発騒音に及ぼす影響は広範囲にわたるので、ICAO指針では空港に近接した地域社会と遠方の地域社会の騒音暴露状況に際立った差異を生じるように元来意図した2例を示している。NADP 1は空港に近い地域において飛行経路の真下の騒音軽減が可能な方式であり、NADP 2は空港から離れた場所での騒音軽減が可能な方式である。NADP 1と2の定義内では様々な方式の開発の可能性がある。
NADP 2と比べて、NADP 1方式ではA380のLAmax騒音レベルを減少させた地域と上昇させた地域があることが判明したが、ヒースローでは東向きのDetling経路で全体として多くの人々が騒音の低下を経験している。しかし、高度の上昇によりLAmaxが減少しても、騒音事象の継続時間が増加するので、SELという騒音評価量で見れば騒音悪化を経験する人々はいても騒音減少を感じる人々はいないという結果となった。
各出発経路に沿った地域の人口分布が異なることが、ある出発方式による騒音暴露結果に影響を及ぼすだろう。2方式のEU-OPS(民間旅客航空と固定翼の貨物航空のための最低限の安全性と関連方式を規定する欧州連合の規則(ウィキペディアより))の限界に配慮しながら最適の方式を見定めることは、個々の空港やエアラインや地域社会の問題である。分析ではあらゆる地点で出発騒音を削減する単一のNADPは無いと示している。NADPを変えると、騒音がある場所から別の場所に単純に移動する。
NADP 2からNADP 1方式に変えると、高度3,000フィートまでのNOxの減少が見られるが、1,000フィート未満での変化は無い。この理由はNADP 1出発方式では3,000フィートまでの上昇が速やかだが、2方式は1,000フィートの高度までは差異がないからである。その結果、地域の大気質への影響にほとんど差はない。しかし、燃料燃焼によるCO2は航空機が出発の後半でフラップ角ゼロの状態にして加速するので、NADP 2からNADP 1に切り替えるとわずかに増加する。
他の騒音管理方式
出発時の騒音規制値に加え、ロンドンの各指定空港では1982年の民間航空法第78条の通知を通じて多くの他の騒音管理方式が公布されている。
離陸滑走開始地点から6.5 kmの地点の航空機の高度は1,000フィートを下回ってはならない。(6.5 kmでの)1,000フィート地点通過後の航空機は、高度4,000フィートまで4%の上昇勾配を下回らないよう保持することが必要である。これらの付加的管理方式の遵守率は大変高い。
上昇勾配の要件が意味するところは、飛行経路下の地点の騒音レベルの漸進的減少の確保である。
航空機の上昇能力
航空機騒音は最小限であって欲しいという地域社会の期待は変わらず、航空機の上昇能力の低下が、これらの地域社会の騒音の状況改善を阻害する要因になり得るという懸念を示す地域社会がある。ヒースローでは航空機の平均高度が徐々に下がっているという状況がここ数年見られる(場合によっては最大400フィート高度が低下している)。しかし、旧型で音がうるさい型式が音の静かな型式に引き続きとってかわられているので、高度が低いからといって騒音全体が増加することにはならない。
出発時の航空機の平均高度が次第に下がっている現象の主要な3つの原因は以下のようなものであると判定されている。
- 新世代の航空機とエンジンは、エンジンの負荷、騒音、排出物そして費用を最小限にするための推力の最適化の余地がかなり大きいので、そのことが部分的に、航空機のおおまかな3分類について観測された航空機の平均高度の漸進的低下傾向を説明するかもしれない。
- エアラインの出発方式が次第に変化してきたことが以前より航空機の高度が低くなった原因であるといういささかの証拠がある。
- 航空機が大型化し、重量が増している。小型機は次第に大型機にとってかわられ、旅客重量が増えている。
騒音規制値が設定されている離陸滑走開始点から6.5 kmの地点のさらに先に出発騒音の監視装置を設置すれば、飛行経路下の騒音レベルが次第に減少していることが検証できるだろう。エアラインがパフォーマンスを改善する動機付けともなり、地域社会にとっても状況の明確な把握が可能になる。これら追加の監視装置に補足的な規制値や勧告レベルを設定すべきかどうかは検討する必要があるだろう。
現在、出発騒音を規制する値にはA特性の最大騒音レベルのLAmaxが使われているが、航空機が頭上を通過する時の騒音を最も単純に表してはいても、騒音の継続時間への配慮がないため、航空機騒音による地域社会における生活阻害を表すには不十分である可能性がある。そのため、SELのような補足的レベルを規制値として新たに設定することが望ましい。
出発に関する最新版の実務指針の策定を産業主導のグループに促すためには、長期的には出発騒音の補足的監視装置の利用と関連レベルについての指針作成が望まれる。それまでは短期的に、各空港での自主的な調整が適切であるかもしれない。