海外情報紹介 航空機排出物の長期間暴露は年間約16,000の早死の原因になるとMITの研究で見い出す

原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=2117

2015年8月7日金曜日−米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らが実施した調査によれば、民間航空機が排出する微小粒子状物質とオゾンは世界全体で年間約16,000人の早死の原因となっている。離着陸時(LTO)の排出物が及ぼす健康影響も同様に重要である欧州と北米を除いて、最も大気質や健康に影響を及ぼすのは巡航時の排出物であるとこの調査チームは見い出した。金銭的価値に換算すると航空排出物に長期間さらされることで起こる早死は年間約210億ドルの費用に相当すると算出された。航空の大気質にかかる費用は気候変動にかかる費用と同程度で、事故や騒音にかかる費用よりもかなり大きいことを研究者らは見い出した。
Environmental Research Lettersに報告されたその研究は、巡航高度におけるジェット燃料燃焼による排出物が原因となる世界規模の早死の出現率を筆頭著者のスティーブン・バレット教授とMITの研究チームが調べた前回の2010年の算定に続く内容である(記事参照)。他の調査で特定の空港周辺の大気質の影響について調べたものはあったが、今回の調査は初めて、空港近隣地域(20km以内)や局地的及び世界規模の健康影響を定量化した。バレット氏によると、以前は巡航時の排出物と空港近辺の排出物のどちらが実際により問題なのかを知るのは難しかった。

航空機は呼吸器疾患との関係があるオゾン(O3)と、肺がん、循環器疾患、呼吸器疾患の発生率を高める微小粒子状物質(PM2.5)を排出する。これら2種類の汚染物質のうち、16,000の早死の大部分(87%)に関係づけられるのは微小粒子状物質である。

北米ではLTO(離着陸)による排出物は巡航時の排出物と比べると43%の早死に寄与しており、欧州ではこの割合は49%でアジアでは9%であるが、この違いは、航空機が原因の大気汚染に暴露する人口の差のためである。全世界的にはLTOでの排出物による早死は、総計16,000のうちの25%に達する。

研究結果は、世界の平均的暴露量よりも高い航空機に起因したPM2.5濃度に暴露される近隣地域住民がいる空港が23%で、その17%が北米にあり、33%が欧州、34%がアジアにある空港で、残りの16%がその他の地域にある空港であるとしている。

空港から20km以内に居住する合計約5,000人(世界規模)の住民が航空排出物が原因で毎年早死していると推定され、欧州では空港近隣の死亡の38%を占めるとその研究で述べている。「我々の結果は、これまでの分析と対照的に、航空からの一次排出物のPM2.5が、空港周辺での暴露で捉えられたならば、健康上のリスクに著しく影響するようである。」と研究者らは語っている。

航空排出物による早死を貨幣価値に換算するため、研究者らは国別に統計的生命の価値を定量化した。米国については環境保護庁(EPA)の推定値に基づき、他の国々については一人当たりの国民所得に基づいて算出した値とした。研究では、航空が排出する汚染物質の健康影響を貨幣価値に換算すると航空による気候影響費用と同規模であり、航空の死亡事故の費用と騒音の費用を一桁、つまりおおよそ10倍程度上回っていることを示している。

このことが示唆するのは、燃料燃焼が削減されると得られる環境上の利益は、気候においても大気質においても同程度であると述べている。さらに、と研究者らは付け加えて、排出物削減につながる航空用バイオ燃料が環境に及ぼす影響を評価する場合、大気質が健康に及ぼす影響は気候に及ぼす影響と同程度の大きさであるかもしれない。それは、パラフィン系バイオ燃料はSOx排出物を排出せず、放射強制力をもつブラックカーボン(黒色炭素、すす)の排出を削減すると考えられるからである。

2013年に報告された研究によると、人間活動によって微小粒子状物質が増大し、毎年約210万の死亡の原因となり、約470,000人がオゾンの増加によって死亡していると見積られている。

別の調査によれば、海運による大気汚染物質が米国だけで年間60,000の死につながり、肺病及び心臓病からの医療費が年間3,300億ドルに上っている。欧州では、国際海運の排出物が原因となる早死数を、学術調査が50,000と見積もっているが、この部門は2020年までは最大の単一大気汚染源になりうる部門であり、陸上の全排出源をすべてあわせた量を上回ると環境NGOのTransport & Environmentが述べている。

「大気汚染関連の健康上のリスクに航空が係わる割合は、現在はごくほんのわずかであると覚えておくことが重要である。」とバレット氏はenvironmentalresearchwebで語った。「しかし、他部門では大気汚染につながる排出物が急速に削減される一方、航空部門では排出物が今世紀半ばまでに2倍あるいは3倍に増加する見通しで、削減のための新たな方策を見い出すという大きな課題がある。」