海外情報紹介 英国の審判者が罰金は有効と裁定し、ジェット・エアウェイズは航空に係わるEU ETSの順守に関する2度目の訴えで敗訴

原記事:
http://www.greenaironline.com/news.php?viewStory=2155

 2015年11月10日火曜日−2012 年排出分に関し、航空に関する欧州連合域内排出量取引制度(EU ETS)の期限を守らなかったため、英国政府によって科された15,000 ユーロ($16,000)の民事制裁金に対し、インドのジェット・エアウェイズが行った不服申し立ては審査官によって退けられた。これはインド当局からの指示によりこの制度を順守すべきでなかったとこのエアラインが主張した前回の申し立てが不成功に終わったのに続くものである。4月の裁定以降、ジェットエアウェイズは航空機運航企業報告書(AOHA)を開設し、2012 年だけでなく2013 年と2014 年のEEA 内排出量に対応する必要排出枠を放棄し、現在はEUETS の規制を順守している。しかし、インド政府の指示により、期日までに順守することを止められたというこのエアラインの2回目の申し立てを審査官は退けた。

 必要な数の排出枠を制度適用年(scheme year)の4月末までに放棄しない航空機運航業者に対して、EU ETS指令ではCO2排出量1トンあたり100ユーロの強制的罰金を科す。ジェット・エアウェイズの場合には、EU ETS管理機関となっている英国環境庁によると、このエアラインが2012年にベルギー、キプロス、アイスランド、アイルランド、チェコ共和国の空港間の運航便で150トン排出したものについて150の排出枠を2013年4月30日までに放棄する必要があった。

 不可抗力であるとして、特にインドの航空機規則1937に含まれる規則に絡むインド政府からの指示によって締切を順守できなかったため、ジェット・エアウェイズにはどうにもならなかったと異議を唱えた。しかし、今回及び前回の訴訟の審査員である英国エネルギー・気候変動省に任命されたデビッド・ハート氏(QC:勅選弁護士)は、事実認定の中で、問題の規則は運航便の規制改善に係わるものであることから、インド政府がEU ETSを順守しないよう指示を出した時の規則下で政府が権力を行使することは「全くあり得ない」と語った。

 「従って、ジェット・エアウェイズはこれらの指示に従うようインドの法律の下で法的に拘束されたという実証を行っていないという私の見解は変わらないが、多分に政治的な理由で当該エアラインがそうしたいと望んだ可能性がある。」とハート氏は裁定した。

 彼はまた、ジェット・エアウェイズはEUの法律に縛られるEEA内のフライトを運航する必要も無く、不可抗力の原則の意味の範囲内にあるとして、細心の注意をはらってはいなかったと強く主張した。その上、ハート氏はこの場合は公正かつ衡平な正義を適用する必要性があるとしたジェット・エアウェイズの対応をはねつけた。

 「すべてのこれらの理由により、私はジェット・エアウェイズの訴えを退ける。」と彼の裁定が結論づけた。「環境庁の2015年5月12日の民事罰則金の通知は従って有効である。」

 このエアラインはこれまでのところ2つの裁定についてコメントせず、今罰金を支払うのかどうかについてのコメントも拒んでいる。

 この結果は今でもEUの気候関連法を順守していない他のエアラインにも影響を及ぼしている。エア・インディアは7月に、2012年のEEA内運航便を対象とする排出枠を放棄しなかったことで英国の当局に12,377ポンド(19,300ドル)の罰金を科されたが(記事を参照)、このエアラインはまた、制度が適用される2013年と2014年の分の期限である2015年4月30日も守っていない。制度が適用される年の排出量とそれを埋め合わせる排出枠の詳細を記録するAOHAも開設していない。罰金を支払ったかどうかについての詳細も明らかにしていない。

 航空に係わるEU ETS指令を国内法に転化した英国の法令の下で、英国が管理する運航業者が期限の日(段落39)および/あるいは運航業者に対するEU内運航禁止を課すよう欧州委員会に要請する日付から6ヶ月以内に民事罰則金を支払わない場合、航空機を拘束して売却する権限が規制機関にはある。

 (英国以外の)他のEU管理国に報告されたEU加盟国外のフラグキャリアーである他エアライン2社もまた、EU ETSを順守していない。エア・インディアと同じように、サウジアラビア航空はAOHAを開設せず、従ってEEA内運航便の排出量を報告しないばかりか2012、2013または2014年の排出枠を放棄していない。このエアラインは罰金を科され、その後2012年の非順守に係わる140万ユーロ(160万ドル)を支払ったが、いまだに法律下で要求されている必要な排出枠の追加の放棄を行っていない。

 報告先がドイツとなるロシアのアエロフロートはAOHAを開設したが、3年間の排出量や提出した排出枠を未登録である。しかし、2012年分が非順守のために総計で5,363,400ユーロ(590万ドル)の罰金が科され、3月に公表されたリストに名前の挙がった44の運航業者の中にはこのエアラインが無かったので、ドイツの管理機関であるDEHStがとった行動はいまだ不明である(記事を参照)。

 2020年以降の航空に関してEU ETSの必要性を回避できる市場に基づく世界規模の方策の開発についての交渉がICAOで継続中のため、EU ETSは欧州の空港間で運航されるフライトを対象とする本来の規制範囲から規模を縮小しており、国際的なプロセスに係わる影響力の大きい諸国家のフラッグキャリアーとの対決にはEU加盟国はこれまで消極的であった。

 航空リスク管理企業であるAvocetのバリー・モスCEOによれば、DEHStのアエロフロートに対する訴訟はドイツの最高裁で行われる見通しとなったが、この件は解決まで数年かかる可能性があり、「それは関係者全員にとって都合が良いことかもしれない。」と彼は語った。

リンク:
ジェット・エアウェイズの2度目の訴えに対するデビッド・ハート氏(QC) による裁定

更新(11月10日):

罰金を支払ったことをジェット・エアウェイズが認めた。